南房秀久『ノーブルウィッチーズ 第506統合戦闘航空団 飛翔!』

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 南房秀久著, 島田フミカネ&Projekt World Witches原作『ノーブルウィッチーズ 第506統合戦闘航空団 飛翔!』角川書店 2015 角川スニーカー文庫

 最近妙に多忙だったうえに少し体調を崩してしまって、遅れに遅れていた今期アニメの鑑賞がようやく本放送に追いついた! 学園で剣で魔法で、ものすごい危機をゆるっと解決、美少女キャラも各種取り揃え……みたいなアニメが大好物なので、今期は久々の大豊作。視聴継続してる作品が現時点で12本もある。Gレコや白箱など前期から続けて見てるのを入れると週に16本。なんだかすごい沢山見てるように感じるが、週に8時間そこそこ、映画4~5本分って考えるとあまり大したことはない。毎朝ぼやーっと食事をしながら見ていると、あっという間に見終わってしまう。
 正確な数は分からないが今期からはじまったアニメは、子供向けや5分アニメも入れると軽く30本を越えるらしい。多少の増減はあるものの毎期これくらいの数がスタートするのだから、完全に過剰供給だ。当たり前のように新アニメがはじまると、キレイさっぱり忘れられてしまう作品が頻出する。どの作品が忘れられずに残っていくのかは分からない。しかしその数はごく僅かで、ヘタすると全滅なんてことも……。そんななかで『ストライクウィッチーズ』は、数少ない忘れられなかった作品の一本だ。

 常軌を逸したキャッチコピーを引っさげて、でっかい銃を手にしたケモミミ&ズボン姿のウィッチが登場したのが2008年の夏。当時も深夜アニメは朝食をとりながら見てたのだけど、事前情報をまったく知らなかったものだから、ウィッチをはじめて見たときはわが目を疑った。ただぼんやりアニメを見てるだけなのに、わが目を疑うなんて経験はそうそう出来るものではない。宮藤のネコ救助シーンでばっちり目が覚めた。なんだこりゃ!? って感じ。とんでもなくアホなものを見たと誰かに話したかったが、残念ながらアニメの話をできる知人は今もっていない。あれから7年近く、関連書籍、円盤をほとんど買いそろえるほどの付き合いになろうとは、あのころはまったく予想だにしていなかった。

「20世紀初頭。突如出現した異形の敵「ネウロイ」は次々と人類の街を侵略していった。それに対抗できる手段はただ一つ、魔力を持った少女(ウィッチ)のみ。彼女たちは、自らの体に兵器(ストライカー)をまとい、空を舞いネウロイに戦いを挑む」(※1)というのが『ストライクウィッチーズ』シリーズの概要。ウェルズの『宇宙戦争』に連なる由緒正しい侵略もので、第一次~第二次世界大戦時の戦況や世界情勢をモチーフにした魔法少女アニメだ。
 この作品には強烈なキャラの見た目のほかにも顕著な特徴がある。「ストライクウィッチーズ(アニメ) まとめwiki」↓の「キャラクター表」を見て分かるように、アニメに出てこないキャラクターも含めて、キャラの数がとんでもなく多い。にも関わらずそれぞれのキャラには、とても仕事じゃできねぇって感じの設定がビジュアル込みでしっかりと起こされていて、一人としててきとーにでっちあげたようなキャラクターがいない。どのウィッチも非常に魅力的だ。場合によってはメディアに登場しないにも関わらず、細かなエピソードが起こされてるキャラもいる。ワーグナーのゴミ箱じゃないけど、どこをつまんでも面白い作品になりそうだ。
 そして超詳細な世界観設定の数々。劇中でも多くの人員と莫大な予算がウィッチたちを支えているという印象的な描写が散見されるが、ケモミミ&ズボン姿の女の子を7年間飛ばせるためには、これだけ膨大な設定が必要なのかと目眩がするほどだ。この世界観の設定とキャラクターを用いて、現在もなお様々なメディアで作品が展開されている。

 ストライクウィッチーズ(アニメ) まとめwiki↓
 http://www37.atwiki.jp/strike_witches/

 そのキャラクター表↓
 http://www37.atwiki.jp/strike_witches/pages/36.html

 実際の世界史とは少しばかりズレた位相で、人類が謎の敵「ネウロイ」と攻防を繰り広げる『ストライクウィッチーズ』の世界では、欧州を中心に8つの「統合戦闘航空団」が攻守のカナメとして設けられている。統合戦闘航空団は各国のエースを集めた精鋭部隊で、TVアニメの主要な舞台になったのは「第501統合戦闘航空団」(501JFW)、そして本書『ノーブルウィッチーズ』の舞台は「第506統合戦闘航空団」(506JFW)である。創設されたばかりの「第506統合戦闘航空団」通称「ノーブルウィッチーズ」は、その名の通り各国の貴族階級出身のウィッチで編成されているが、成立からして諸々のやっかい事を抱えているらしい。そんな部隊に配属されることになったのが主人公、黒田那佳中尉だった。彼女はもともと華族の傍系の生まれだが、506JFWに配属される直前にわざわざ本家「黒田家」の養子となっている(このあたりの経緯もしっかり書かれている)。傍系の生まれという出自から、庶民的な性格付けのキャラで、親しみやすく明朗快闊。おかげでウェットな展開にはなりそうにないのがありがたい。ガチ貴族マインドを有する上官、ハインリーケ大尉(かわいい)との掛け合いも楽しい。

『ストライクウィッチーズ』ではキャラ同士の交流と作戦の遂行というプロットを、適宜ミックスしたりしなかったりして作品を構成している。各メディアの作品を見ても、前半は当然前者が採用され、後半には後者か、もしくはそのままキャッキャウフフでエンディングといった感じの作品が多い。新シリーズの本書でも主人公の那佳を中心としたキャラ同士の交流(融和)がストーリーの中心になっていて、ある程度基本設定が把握できれば、シリーズにはじめて触れる読者でも充分に楽しめる作品となっている。もちろん以前からのファンにとっても、おなじみのキャラへの言及やゲスト出演があり、サービスは満点(雰囲気はいらんこ中隊(※2)からエロ要素を抜いた感じ)。おすすめ。

 あと軍事関係の元ネタ等については上記のまとめwikiなどに詳しく書かれているので、オカルト系のネタ「ネウロイ」について少し触れておこうと思う。「ネウロイ」(←google検索です)で検索すると出てくるのは、かつて黒海の北方地域に居住してたとされる部族の名称で、古代ギリシャの歴史家ヘロドトスの『歴史』に登場する。彼らは魔法を使い、オオカミに化身するとも伝えられている。これは最古の人狼伝説のひとつである。
 たまーに引用する栗原成郎『スラヴ吸血鬼伝説考』では「ネウロイ」(Neuroi)の語源についての諸説が解説されていて、ポーランドの言語学者ブリュックナーの「Neuroiの語源を「人嫌いな」、「陰気な」、「悪しき」の意味を持つスラヴ語の形容詞の語形 nyu- 〔中略〕に関係づけ、Neuroiとは「悪しき者たち」の意で、「呪術師」という階層の名称が種族全体の名称に転用された」(※3)という見解を、東スラヴ族の俗信やロシアの民間伝承と照合し「説得性を持つ」としている。またネウロイの伝説とスラヴ族を関連づける直接的な文献資料はないが、ともにオオカミをトーテムとする点で密接な関わりがあったと考えられるともいう。
 前にも書いたけど吸血鬼の原郷であるスラヴ地方では、吸血鬼と人狼は長らく同一視されてきた。(※4)『ストライクウィッチーズ』に登場するネウロイには、描写されることこそ少ないが初期設定に「水を渡ることを嫌う」というのがあって、これは流水を渡れない吸血鬼の特徴と一致している(日本の死霊にも同様の特性を持つものがある)。ネウロイが吸血鬼に通じる属性を持っているなら、吸血鬼を見極めそれを滅ぼすことのできる存在「ダンピール」(Dhampir 吸血鬼と人間の混血)と、ネウロイに唯一対抗できるとされるウィッチにも、なんとなく関連があるような気がしないでもない。またネウロイの侵攻をヨーロッパにおけるペストの流行と関連づけて考えてもおもしろいかもしれない。といった感じで、色々楽しめる作品です。イラストは島田フミカネと飯沼俊規。


 ※1. GONZOの『ストライクウィッチーズ』のサイトより↓
 http://www.gonzo.co.jp/works/strike2/

 ※2. ヤマグチノボル『ストライクウィッチーズ スオムスいらん子中隊がんばる』(←amazonへのリンクです)
 角川書店 2006 角川スニーカー文庫 シリーズ3作品出てます。エロい。

 ※3. 栗原成郎『増補新版 スラヴ吸血鬼伝説考』河出書房新社 1991 p179-180

 ※4. 関連記事です↓F・G・ローリング『セアラの墓』
 http://serpentsea.blog.fc2.com/blog-entry-389.html

『ストライクウィッチーズ』公式サイト↓読み応えあり。
 http://w-witch.jp/


 

劇場版制作決定記念アンコールプレス ストライクウィッチーズ Blu-ray Box 限定版』角川書店 2011


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