加藤一『「超」怖い話 未』

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 加藤一編著, 久田樹生, 渡辺正和, 深澤夜共著『「超」怖い話 未』竹書房 2015 竹書房文庫

 毎年一冊ずつ刊行されるらしい干支シリーズの新刊「未」が出た。去年の「午」に続く新シリーズ二冊目の本だ。竹書房の「「超」怖い話」と「恐怖箱」は一通り買ってるんだけど、本書に限らずこれらのシリーズの怪談には、困ったことに(喜ばしいことに)再読のたびに随分印象が変わる話がある。この本も一読した限りではケレン味のない「正調」って感じの話が多い感じだけど、繰り返し読むうちにまた印象が変わるかもしれない。

 それにしても毎回よくこんなに怪談が集められるなあと思う。この本には28編の実話怪談が収録されているけど、ほかにも振るい落とされた話がいくつもあったに違いない。ちょっと真似をして、機会があるごとに色々な職業の知人にそれらしい話を尋ねてみるのだが、知ってか知らでか全然話してくれない。うまく聞き出せたとしてもどこかで聞いたような話が多く、実体験となるとさらに稀だ。お年寄りのなかには面白い話や、不思議な話をしてくれる人もいるが、これ怪談とは違うよなーなんて思いつつ、有り難く拝聴している。だいたいそんな調子なのだが、この本を読んでいて、昔私鉄の運転手をしていた人から聞いたちょっと不思議な話を思い出した。人身事故についての話だ。といってもかなり地方の、かなり田舎を走る路線の話で、事故自体あまりなないし、もしあってもうっかり線路に入っちゃった系のトラブルばかり。飛び込みなんて滅多にない。ところが同僚の運転手のなかに、稀にしか発生しないそんな事故に何度も遭遇する人がいたという。人身事故が起きれば、またあいつかよ?? って感じだったらしい。交代で同じ路線、同じ時刻を、同じ車輌で走っているのだから、誰が事故にあってもおかしくないはずだ。なのに彼一人に集中して事故が起きる。オバケなんかは信じてないけど、あれは不思議だったなーとしみじみ回顧してるのが印象的だった。

 長くなってしまったが、この本の最初に収録されているのも鉄道にまつわる実話怪談だ。

「ホームにて」人身事故が発生した駅の終業後のホームで発生する怪異と、それに対応する職員の話。シンプルで古典的な筋運びだが、恐怖を振り払って淡々と仕事を続ける職員の抑えたリアクションが味わい深い。舞台は新宿駅。人が溢れかえる営業時間中のホームと、終電後の誰もいない暗いホームとのギャップが怖い。以前パリのメトロで終点と気付かないまま乗り続けていたら、なんか暗い洞窟みたいなところに一人で運ばれてしまってめっちゃびびった。電車はそこでまったり折り返してました。

「自転車」この本には夢と現実がごっちゃになるような、時空を超えるっぽい話がいくつか収録されている。そんななかで一番好みだったのがこの話。山中の温泉旅館に宿泊した体験者が、深夜気付かぬうちに山奥に迷い込み、廃虚のような建物に助けを求める。ところがその建物には、さらに奇怪な出来事が待ち受けているのだった。
 暗い山中での心細さ、建物でのわけの分からない出来事が巧みに表現されている。なんとなく諸星大二郎の漫画の雰囲気で、迷い家や隠れ里などの民話を連想させるが、もっと邪悪な感じ。

「水音」これもシンプルな幽霊談。幼い体験者は幽霊を目の前にしてもほとんど怯えていない。それどころか正体を確かめようとさえしている。そんなとき、耳をつんざくような悲鳴をあげたのは……。短いながら深くて暗い背景を想像させる好編。なんとなく理不尽。

「尽期」幽霊も妖怪も出ないし、怪奇現象が発生しているのかどうかさえはっきりしないけど、実感たっぷりで怖ろしい話だった。特定の状況下で死を予知する能力にまつわる話だが、分からないことが多すぎる。しかしそれがかえって、不安感や薄気味の悪さを盛り上げているように思う。主人公の祖母(体験者の祖母)を捕まえて、色々問い詰めたくなる。

「甘い果実」神社の奉納祭の夜を舞台にした、雰囲気のいい和風怪談。もちろん雰囲気がいいだけじゃなくて、生じる怪異も非常に不気味なものだった。幼いころの体験者は神社の裏の森で立ちションをしながら、森の奥に方になにか光るものを見つける。そのあたりは人が立ち入らない場所だったという。興味を抱いて近付いてみると、発光していたのは一本の樹木に実った果実だった。最初は気味悪く感じていた体験者だったが、その実を食べてみたいという強い欲求に駆られる……という話。端的にいうとバチがあたった話なんだけど、怪異は類例が思いつかないような独特のもので、読み応えがあった。本書のなかでも屈指の一編。

 ……上記のほかにも「羽音」「まさしく、青天の……」「火掻き棒」などがよかった。「振袖」の怪異はまさしく妖怪「小袖の手」で、クラシックな妖怪が現代の実話怪談でも活躍してるのが嬉しい。少し気になるところもあった。まず後日談がオチのように付いてる話が多いこと。実話怪談だから付いてるものは付けるって姿勢なのかもしれないが、場合によっては話のスケールを縮めてしまって、そら怖ろしい雰囲気が削がれてしまう。それから実際に数えればそんなでもないのだが、ウンコ。ウンコの臭いがするとか、ウンコが落ちてるとか、そういう描写がやけに多いような印象を受けた。下品だとかそういうのじゃなくて、ここぞというところで何度も用いられるので、怖さよりもまたウンコですか!? って思ってしまった。これも実話怪談だから……ってことなのかもしれないけれど、頻繁に用いられると効果は確実に薄くなっていく。
 といった感じで多少気になるところもあったが、全体に落ち着いた話が多い印象。まだ1回しか読んでないから、この先印象が変わる話も多いと思う。来年の「申」が今から楽しみだ。いやその前に夏の十干があるか。


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Posted byserpent sea

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