江戸川乱歩『妖怪博士』

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 江戸川乱歩『妖怪博士』(『江戸川乱歩推理文庫〈32〉妖怪博士/青銅の魔人』講談社 1987 所収)
 
 狂気のレイヤー、怪人二十面相による復讐の千本ノックがはじまる。

 明智小五郎と二十面相のキツネとタヌキ、猫とネズミのようなバトルに巻き込まれた少年探偵団の面々。今回の二十面相のターゲットはいつもの書画骨董の類いではなく、これまで散々な目に合わされてきた明智探偵と少年探偵団。復讐のはじまりだ。半ズボン姿のいたいけな少年たちが、緊縛されたりヘビをけしかけられたりと、次々に二十面相の変態チックな罠に落ちていく。なかでも中盤、それまで気丈に振舞っていた小泉君が圧殺されそうになって、とうとう「おかあさーん! 助けてくださーい!」(p.156)と泣き出すくだりは、その道の人にとってはたまらない展開ではないだろうか。

 構成は串ダンゴ方式のシンプルなもので、アトラクション性が高い。後半の鍾乳洞探険はさすがにこの状況下で行くか?? って感じで、唐突すぎる印象は否めないが、それでも少年探偵団の地底探険はスリル満点で面白い。この作品が発表された同じころ、海の向こうでは両親を殺害されてちょっとおかしくなった少年が、長じて黒いスーツで身を包み、夜な夜な犯罪者駆りに精を出していた。それを知ってか知らずか(まず知らないと思います)鍾乳洞の闇のなかで二十面相が繰り出した最後のコスは、これ以上ないほどにTPOをわきまえた「大コウモリ」。それもリアルなやつ。どうやら全身すっぽりタイプの着ぐるみらしいけど、狭い洞窟のなかでは色々不自由そうだったから、ライダー怪人の吸血蝙蝠男をイメージして読んだ。今読んでもかなりハラハラする展開なので、作品発表当時(1938年頃)の子供たちはさぞかしびびりながら読んだことだろう。

 この作品は戦前に書かれた最後の少年探偵団 vs 二十面相もので、二十面相の復活は戦後の『青銅の魔人』(←前の記事へのリンクです)まで待たなければならない。当時乱歩の大人向きの作品には、検閲により削除の対象(とりあえずエログロはNG)となったものが何作もあった。探偵小説自体、非常に書きづらい状況だったらしい。そんなころに書かれたこの児童向けの作品にも、当然直接的なキツい描写は見られない。ただ濃厚なフェチっぽさは終始漂っていて、それが実に著者らしいと思う。挿絵は梁川剛一。大コウモリのシーンもしっかり挿絵になっている。



『江戸川乱歩推理文庫〈32〉妖怪博士/青銅の魔人』
 講談社 1987
 著者:江戸川乱歩
 解題:中島河太郎
 巻末エッセイ・乱歩と私:斎藤栄(作家)「乱歩と私」

 収録作品
 『妖怪博士
 『青銅の魔人

 ISBN-13:978-4-0619-5232-4
 ISBN-10:4-0619-5232-3


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Posted byserpent sea

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