森由岐子『魔怪わらべの唄』

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 森由岐子『魔怪わらべの唄』ひばり書房 1984 ヒット・コミックス 147 怪談シリーズ

「この家にはトイレがない!」という衝撃的なセリフで、著者の作品のみならず、ひばり書房のヒット・コミックスの中でもトップクラスの知名度を誇る作品。タイトルからは想像できないが、ガチ侵略SFである。

 主人公はOLで新興宗教の勧誘員「糸井あずさ」(19才)、彼女が郊外の一軒家を訪ねるところから物語は始まる。目的はもちろん勧誘活動だ。宗教なんてクダラナイという主婦に、玄関先で熱弁を振るうあずさ。勧誘活動は一時間以上にもおよび、やがて不覚にも尿意を催したあずさは、思い切ってトイレを借りたいと申し出た。ところが主婦の答えはNO。いくら懇願しても激しく拒否されてしまう。本格的にヤバくなったあずさは、主婦の制止を振り切って強引に上がり込むと「ああ……もう、もれそう……」なんてつぶやきながらトイレを探しはじめる。しかしいくら探してもトイレは見当たらない。二階にもない。12ページほど探しまわったあげく「この家にはトイレがない! 」という冒頭のセリフ……。

 突っ込みどころ特盛りの作品として紹介されることが多い本作だが、この作品の決定的な特異さは冒頭の「トイレがない」に尽きる。人間社会に潜伏して地球侵略っぽいことをたくらむ侵略者は数あれど、その計画がトイレの有無で露見するなんてアイデアは他に例を見ない(本作のパロディetcは除く)。笑って読んでるうちに、やがてそら怖ろしくなってくるほどの不条理さだ。あまりにストレートに頑なに「トイレがない」を展開してしまったがために、登場人物の価値観やリアクションがなし崩し的に歪み、結局こんな感じになっちゃったのだろう。素直に描かれた愛すべき作品だが、誰かに薦めるとなると少し躊躇してしまう。恐怖表現は結構凝っていて、不気味な子供がずっと後をついてくるとか、不気味な子供がほのエロい人形遊びをしている(←かなりショッキングです)とか、目的がさっぱり分からなくて気味が悪い。

 作画は古き良き少女マンガのタッチで、カケアミや点描が多様されている。トーンが一切使われてないので、今見るとなかなか新鮮。著者は描くのがすごく速い人だったらしいけど、建物や自動車以外には作画に目立った狂いもなく、とくに人物のアップはよく整っていて上手い。また表紙は著者によるものかどうか分からないが、高橋真琴とかあの辺をどうにかしたような雰囲気が素晴らしい。
 この作品もひばり書房のコミックスの例に漏れず『魔怪わらべ 恐怖の家』のタイトルでも刊行されていて、そっちのタイトルの方が内容に合っている。



『魔怪わらべの唄』
 ひばり書房 1984 ヒット・コミックス 147 怪談シリーズ
 著者:森由岐子

 ISBN-13:978-4-8280-1054-0
 ISBN-10:4-8280-1054-8


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Posted byserpent sea

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