つのだじろう『霊劇画 真夜中のラヴ・レター〈5〉』完

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 つのだじろう『霊劇画 真夜中のラヴ・レター〈5〉』主婦と生活社 1983 SJコミック

 ついに完結を迎える第5巻。全体にこれまでのおさらいって感じで、結構あっさりと終わる。最終回らしいのはラストの見開き2ページくらい。しかし後述する理由により、とても興味深く価値ある一冊となってる。

 表紙はこれまでの七条絵夢に代わって、前巻から登場した西塔恵。羊膜に包まれた三体の胎児を背景に佇む霊能者という、非常にかっこいい表紙である。扉のイラストもまた著者ならではの素晴らしいもので、全裸で抱きあう男女と霊能者の間に血まみれの髑髏を配する構図で、この作品を端的に表現している。

 本書には第22章~第26章(最終章)の全5話が収録されている。

 - 各話の霊障と雑感 -

「第22章 浮気なみゆき」タイトルから分かる通り、この作品の重要なテーマのひとつで、これまでも繰り返し描かれてきた、色情霊にまつわるエピソード。大学入試に失敗したのをきっかけに、男遊びをするようになった相談者が幻聴などの霊障を受ける。霊能者西塔恵と安倍富貴子の霊視によると、相談者には脳梅毒に冒された宿場女郎の霊が憑衣しているらしい。慢性的な頭痛や婦人科系の不調もこの霊が影響しているという。いつも通りの安定感で二度の除霊の経緯が手堅くまとめられているが、さらに「霊言」による場所の特定という要素が追加されている。

「第23章 泉三丁目8」「心霊写真」「心霊治療」に続いて、実証可能な現象として著者が注目したのが「霊査による人探し」だった。前章がちょっとした前振りになってるんだけど、こういった構成は本作の中で何度か試行されている。
 今回扱われる案件は二つ。名前も生死も分からない実の親を捜す娘の話と、家出した娘を捜す親の話である。主に担当するのは西塔恵。二組の相談者に対して、生霊招霊、幽体離脱、透視によって霊査を行う。
 霊能力の証明に並々ならぬ意欲を持つ著者は、本書においても「まったくなにもないところから/霊能者の力だけで母親を見つけ出したとしたら」「これは霊能力の存在を証明するだけでなく」「一般的にいえば完全に『奇跡』を起こしたことになる」(p.90)と意気軒昂である。結局この2例の霊査は完全に失敗に終わるのだが、それをそのまま作品化しているのがおもしろい。「失敗もあるが素直な意見を出す、若い霊能者の鋭い霊感度に期待」(p.191)しているという著者の気持ちの現れだろう。

「第24章 古京都の因縁屋敷」タイトルからは第2巻「第6章 信濃川地縛霊」のようなホーンテッド・ハウスものを連想してしまうが、今回の問題の本質は「屋敷」ではなく相談者の家系にまつわる「因縁」の方らしいから、どちらかというと第4巻「第17章 六枚の扉」に近い。おさらいといった感が強いエピソードである。
 相談者の抱える案件は「なんか不幸なんだけど、これはきっと家のせいだと思う」という漠然としたもの。担当する霊能者は引き続き西塔恵。著者とともに現地に赴いて霊査を行うが、屋敷には予想以上の因縁が渦巻いていて、浄霊は不可能だという。前巻までのレギュラー霊能者七条絵夢がどんどん万能化していったのに比べると、西塔恵が独自に形成した規範を常に前面に出して活動している点が興味深い。

「第25章 霊能者いろいろ」短編ながら、本作品の価値を決定づける異色のエピソード。前半はインチキ霊能者から性的な被害を受ける女性の話、それを踏まえた後半は「霊能者の霊査料」と、霊能者の真贋を判定する方法を著者自身が開陳するという画期的なもの。
「霊能者の霊査料」に関しては霊能者10人分の性別と霊査料金、同じ問題についての霊査結果が表にまとめられている。霊査料は5000円から、霊査料、浄霊料、供養料込みの19万円が最高。この表を見る限りでは、女性霊能者の霊査料の方が比較的高額になりやすいようだ。また霊査結果は見事にバラバラで「自分の出した答えが正しいかどうかは 霊能者自身にすらわからない」(p.188)と、著者もフォローに窮しているかのような印象を受ける。
 そして霊能者の真贋判定法。著者によると「自分だけが本物で、他の霊能者は偽物だと断ずる霊能者には要注意」「基本的に若い人の方が優れている」「多弁で口のうまい霊能者には注意」「お金をとらないから必ずしも良心的とはいえない」など、予想外に具体的な判定法が示される。ただ金額に関してはかなり曖昧で、高かろうが安かろうが「つまりは結果ですから」(p.194)とのこと。悪質な霊能者に金集めの逃げ道を残してしまっているようで残念な気もするが、ここはもう少し好意的に受け取りたい。ともすれば浮世離れしたところのある著者である。どうも霊的な事柄を金銭の多寡で計るということ自体に、違和感を感じているらしいのだ。霊能者にも生活があるのだから、というニュアンスの劇中の台詞からは、そう思うことによって自身を納得させようとする、著者の本音が垣間見えるような気がする。

「第26章 奇妙な絵」最終章らしくないごく平均的な短編だが、ちらっと精神医学にも触れられている。相談者は娘の異常な言動に困り果てた家族。精神病を疑ったが、娘が診察を受けようとしないため、霊能者に頼ったという。霊障の原因は悪質な浮遊霊らしい。ここで取り上げられる奇妙な絵とはその娘が描いたもので、見るからにアウトサイダー・アート。最終章にも関わらず、西塔恵によって除霊が行われた後も症状は全く改善しない。「つまりは結果ですから」(p.194)という著者の言葉が重い。

 以上で『霊劇画 真夜中のラヴ・レター』は完結。
 本作は著者の代表作というわけではないが、その思考の変遷がよく表れた興味深い作品だと思う。たとえ少々アンバランスなところがあっても、色々な読み方のできる作品はやっぱりおもしろい。

 ※フキダシからの引用は、読みやすいように改行を調整しています。


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Posted byserpent sea

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