堀田郷弘『フランス民話 バスク奇聞集』

0 Comments
serpent sea
堀田郷弘訳編『フランス民話 バスク奇聞集』社会思想社 1988 現代教養文庫

 スペイン・フランス国境のバスク地方には長らくヨーロッパの方のすごい田舎ってイメージしかなかったんだけど、BSの旅行番組で現地を見たところ……やっぱりすごい田舎だった。でも日本との関わりは超深くて、なんとあのイエズス会の宣教師フランシスコ・ザビエルがバスク人だったそうで、番組に出てきた現地の人もザビエルを誇りに感じてるようだったし、日本との関わりもよく知っていた。それからかつて漫画家の必須アイテムだったベレー帽も、バスク地方が発祥なのだそうだ。この本の挿絵に出てくる妖精もばっちりベレー帽をかぶっている。もっとも全裸にベレー帽という非常に男らしいスタイルなのだが……。

 この本にはバスク民俗研究で著名なジャン・バルビエ(Jean Barbier)の著作をはじめ、何冊かの民話集から32編の民話が訳出、収録されている。構成は「第1章 妖精ラミア」「第2章 怪物タルタロ」「第3章 主イエスとペテロ聖人の奇跡」「第4章 悪魔と魔女たち」「第5章 ことばを話す動物たち」「第6章 だます者、だまされる者」の6章。訓話的な要素も多分に含まれているが、メインはそういう要素の全然感じられない奇怪な昔話で、宗教色の強い民話でさえやけに理不尽でおもしろい。第3章ではイエスとペテロのコンビが『ギャグマンガ日和』みたいなゆるいノリで各地を訪れては、奇跡という名の騒動を引き起こしている(そしてなぜか決まってペテロが酷い目に合う)。「あとがき」には「バスク人の熱心なカトリック信仰と土俗民話が結びついたものと思われる」とある。第2章にはキリスト教徒を嗅ぎ分ける怪物が登場する。ノルウェー映画『トロール・ハンター』(2010)にも同様の能力を持ったトロールが登場したが、これもキリスト教に先行する根強い土俗信仰があっての設定だろう。

 怪物というには少々抵抗を感じる謎の生き物「ラミア」と「タルタロ」は、ギリシア神話の似たような名前のキャラとはほど遠く、獣人系UMAそのものって感じだった。独自のコロニーを形成してそれなりの文化的生活を営んでいるらしい。ラミアは「森の貴人」「森の貴婦人」なんて呼ばれているが、しばしば人の村に現れては、女性をかどわかしたり、モノを盗んだり、契約に縛られてこき使われたりしている。日本のカッパに似た性格設定のキャラだ。このラミアに限らず、どこかで聞いたことのあるような、なんだか親しい感じのする話が多かった。もちろん三人兄弟の話や、魔物の会話を盗み聞きして富を得る話、見るなのタブー(メリュジーヌ・モチーフ)を含む話など、世界各地に伝わる民話の類型パターンに沿った話は多いのだが、そういったことを越えて手触り?のようなものが、慣れ親しんだ日本の民話に似ているように感じた。上記のBSの番組からは全然そんな印象は受けなかったのだけど、「あとがき」によるとバスク地方はかなり自然環境が厳しいのだそうだ。海洋国家の日本とは一概に比べられないが、自然に向き合う姿勢には通じるものがあるのかもしれない。


関連記事
serpent sea
Posted byserpent sea

Comments 0

There are no comments yet.

Leave a reply