加藤一『「極」怖い話 地鎮災』

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 加藤一『「極」怖い話 地鎮災』竹書房 2013 竹書房文庫

 土地、建物にまつわる怪談だけを集めた本。「円形マンションについて」など数十ページにわたるような長い話から、2ページほどの短いものまで、全28編が収録されている。一口に土地、建物といっても、舞台は普通の一軒家、アパートやマンション、ホテル、飲食店のテナントと結構バラエティに富んでいる。映画館やゴルフ場が舞台の話もあった。物件の状態も建設中のものから、新築、廃屋と様々だ。題材がごく身近なだけに、実話怪談ファンでなくても楽しく読めそうだけど、引っ越しの多い人、ホテルや旅館に投宿する機会の多い人の方が、より色々共感できるのではないかと思う。

「瑕疵物件」体験者夫婦が移り住んだ分譲マンションに嫌な出来事が起こった。それは気に留めることもないほどの些細な出来事だったが、それをきっかけに妻は精神に異常を来たし、夫婦の関係は崩壊していく。
 徹底した事前調査にも関わらず、発生する怪異。やっぱり安すぎる物件は危険。それと説明はされないが、話の核とおぼしき姿見の存在も気味が悪い。この二点でもしも自分が部屋を探していたとしても、このマンションには入居しないと思う。ましてや分譲なんて。一番最初に置かれてることもあってスタンダードな話かと思いきや、ひとヒネリされている。

「井戸」前に少し書いたかもしれないが、数年前「お祓いをせずに埋められた井戸への対処法」について、神職の方に尋ねる機会があった。貞子の井戸……は死体が遺棄されてるし、そもそも埋められてもないけど、そんな背景がなくてもぞんざいに埋められた井戸が身近にあるとすれば、やっぱなんか怖い。というわけで尋ねてみたのだが、答えはいたってシンプルだった。物理的な危険が生じないならスルーしてOK。いやもっと強いニュアンスで、スルーすべしって感じだった。曰く「井戸は御神木と同じようなものだから、もしも障りがあるとするなら切り株のそばを往来する人ではなくて、その木を切り倒した人に対してでしょう」とのこと。そう言われてみれば、御神木と井戸、地面を挟んでシンメトリーだし機能的にもなんとなく似てるような気がしてくる。また意外だったのが、御神木や井戸に限らずその手のモノに手をつけるときには、ほとんどの業者がきっちりお祓いを受けているということ。効率優先でそんなことに気を配らない場合も多いのではないかと思っていたけど、これは間違いだった。なにも考えずにやっちゃうのは圧倒的に個人の方らしい。
 このエピソードに出てくるのは、不幸にもお祓いなしで潰されてしまった井戸だ。マンションを建てるのだそうだ。話のなかで怪異らしい怪異はなにも起こらない。しかしなにかが起こりそうな嫌な雰囲気は濃厚に漂っている。人も死なない。今のところは。

「円形マンションについて/他4編」北海道にある有名な心霊スポットの関係者に対する聞き取りと、現地のルポが少々。5部構成の力の入ったエピソードで、珍しく物件の写真まで載ってるし、関連の噂話に登場する宜保愛子に関してもばっちり言及されている。「円形マンション」(←Google検索)については色々なサイトが記事を載せているのでここには書かないが、あの土地には北海道の歴史の暗い側面に根差した怨念と、かつてそこにあった病院の経営者家族(体験者の家族)の宿業が、混沌となってわだかまっているらしい。体験者の語る怪異も凄まじいものだ。興味深かったのは、ネット上も含めて巷間を賑わせている噂の数々が、変形しながらも結構マトを得ているということ。数十年も前の、当事者にしか知りえないようなエピソードを含む出来事が、こんなふうに伝わるものだろうか。実に不思議だ。……それにしてもこの一連の話、現地取材etcをプラスして一冊の本にまとめてくれないかな。絶対に買うのに。

 このほかにも「小金井のアパート」「従業員寮」など、しっかり幽霊の出てくる話も載っている。「枠組み足場」は祈祷やお祓いのされてない墓地の跡地の話、「ご神木 二柱」は御神木と祓いに関する話だ。なんだかまとまりのない感想になってしまったが、幽霊屋敷もののファンにはとくにおすすめ。


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