諸星大二郎『栞と紙魚子の生首事件』

0 Comments
serpent sea
 

 諸星大二郎『栞と紙魚子の生首事件』朝日新聞社出版局 2007 眠れぬ夜の奇妙な話コミックス

「栞と紙魚子」シリーズの記念すべき第1巻。続巻と比べるとかなり血生臭く、舞台となる「胃の頭町」がまだ異界化する途上にある感じで、街全体が怪異に見舞われるようなスペクタルな展開はないから、まさに「事件」って言葉がぴったり。収録されている10話のうち、劇中で刑事事件が発生する表題作の「生首事件」「殺人者の蔵書印」ではとくにその傾向が強い。こっちの雰囲気の方が好きって人も多いかもしれない。メインキャラの面々はこの時点ですっかり出来上がっていて、揺るぎない。

「自殺館」「ためらい坂」の2編は、後の同系統のエピソードと比べると、なんとなくこなれてない気もするけど、このバカバカしいワルノリは今後の展開のなかで欠かせない要素となっていく。また後半に収められている「ボリスの獲物」「クトルーちゃん」「ヨグの逆襲」の3編はボリス vs ヨグ回。二匹のバトルに乗って段先生一家が手際よく登場している。何でもありの世界観をより拡張する段先生一家の登場によって、本作の成功は決定的なものとなった。

 各話はほぼ発表順に収録されているが、「ゲッコウカゲムシ」だけが本来なら「殺人者の蔵書印」と「ボリスの獲物」の間に入るべきところを、一番最後に回されている。月光のもと栞と紙魚子が仲良く家路につくノスタルジックなエンディングが、結びに相応しいと判断されての構成だろう。また『ゲッコウカゲムシ』は、「よりによってなんで あんなおっさんに」(p.133)「せめて女の子にでも なればいいじゃないの!」(p.131)と言う栞に激しく同意の短編「それぞれの悪夢」とともに、主人公二人のキャラとその関係を掘り下げるエピソードでもある。

 改めて本書を読み直してみると、この先シリーズが進むに連れて開花する様々な要素の萌芽を、随所に見ることができる。そういう意味では第3話の「桜の花の満開の下」は、どこまでも素の主人公たちが予期せず異界に足を踏み入れ、向こうの住人からも素のままの扱いを受けるというあたり、早々と今後のシリーズの展開を暗示しているかのようで興味深い。
 本書には続巻にはない「あとがき」が付いていて「『ネムキ』という雑誌は一応少女雑誌なので、一応少女を主人公にした訳なのですが、あまり(というかほとんど)少女雑誌とか少女向けとかいうことは考えずに画いて来ました」って感じの、著者の肩の力の抜けた様子が伝わってくる。

 ※フキダシからの引用は、読みやすいように改行を調整しています。


関連記事
serpent sea
Posted byserpent sea

Comments 0

There are no comments yet.

Leave a reply