岩満重孝『百魚歳時記 第三』

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 岩満重孝『百魚歳時記 第三』 中央公論社 1982 中公文庫

 先日明日香村に出かけた際に、電車のなかで読むために持って行った二冊のうちの一冊がこの本。奈良に行くのに魚の本ってのがちょっとあれだけど、読みかけていたのをそのまま持って出たのだ。もう一冊はシャーリィ・ジャクソンの『たたり』だった。『たたり』の方はあまり進まなかったけど、こっちはすっかり読み終えることができた。どこを開いても読めるし、全項目に絵が付いているのが楽しい。

「事典風エッセイ」というこの本には、100種類以上の魚介類に関するエッセイが収録されている。基本一項目につき見開き2ベージ(800字なのだそうだ)で、上記の通りすべての項目に著者によるイラストが載っている。シリーズ三冊めということで、「アナハゼ」や「ミシマオコゼ」などのややマイナーな魚、タコやイカなどの軟体動物や貝についての項目が多い。生物学的な記述はそこそこで、歴史的、文学的なアプローチがメイン。

 貝貨として用いられた歴史を持つタカラガイ科の「黄色宝」(キイロダカラ)の項目を例にあげると、まず形状の解説から、分布、歴史、「この宝貝をお産の時にしっかり握っていると、やすやすと子供が産まれてくる」(p.17)などの俗信に触れ、それからジャン・コクトーの詩、締めくくりに上原一葉って人の「子安貝無医村にして珍重す」という句が引用されている。「子安貝」(コヤスガイ)はタカラガイの別名である。これだけの内容がさらっと書かれ、さらに食用の魚介類に関してはその調理法までが紹介されている。

 この「キイロダカラ」の項目には「それにしても、貝というものは何故あのように美しく、また人心をとらえるのであろうか」(p.17)とあって、同様の記述がほかの貝の項目にも出てくる。著者は魚はもちろん、本当に貝が好きなようで、その点で非常に共感することができた。文章も面白いし、気軽に読むにはもってこいの本だと思う。

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Posted byserpent sea

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