柴田錬三郎『恐怖屋敷』

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 柴田錬三郎『恐怖屋敷』(『日本幽霊譚』文藝春秋 1968 所収)

 歴史小説、時代小説の大家による幽霊屋敷を題材にした犯罪小説。昔ながらの和風建築物の、暗闇に支配されているかのような不気味さが巧みに表現された作品で、ショッキングではないけれど、ストーリーティングが上手いから楽しくどんどん読めた。前半は由緒正しい幽霊屋敷もの、後半は前半で生じた怪奇現象の謎解きという構成で、最後の最後にもうひとヒネリされている。

 登場人物は明治維新の後「田中屋敷」と呼ばれる豪壮華麗な建築物を築いた「田中喜右衛門」老人と、その病弱な妻「文子」、養子の「文蔵」。それから使用人二人に、女中たち。色々な意味で病みつかれた彼らが、犬神御殿みたいなお屋敷を舞台に色と欲とでドロドロのドラマを展開する。あともう一人、語り手として新聞記者の青年が配置されているのだが(この作品は彼の手記って設定)、彼は直接事件に関わることなく、最後まで傍観者ポジションに徹している。

 劇中、登場人物の変死に先駆けて発生した怪奇現象は、どこからともなく男女のうめき声が聞こえてくるというシンプルなものだった。といっても、なにか聞こえたような気がするとか、誰かのうめき声がたまたま聞こえたってレベルじゃなくて、広い邸内に響き渡るくらいのでっかさ。実は田中屋敷で生じた具体的な怪奇現象はこのうめき声だけなんだけど、業の深い登場人物のゲスい行状や、屋敷のただならぬ雰囲気がしっかりと描写されているため、うめき声一つでもインパクトは強い。
 そしてこの声の怪をきっかけに、家族は加速度的に崩壊していく。後半は解決編っぽいタネ明かしになるのだが、すっきり終らないのは冒頭に書いた通り。
 
 ところで著者は一昨日の遠藤周作『三つの幽霊』(←前の記事へのリンクです)の作中に、遠藤周作の心霊体験を全く信じない先輩作家として実名で登場、遠藤をさんざん嘘つき呼ばわりしている。ところがこの『恐怖屋敷』と同じ『日本幽霊譚』のなかの『わが体験』では、「齢五十歳にして、なんとも、名状しがたいおそろしい経験をしたのであります」(p.5)なんて書いて、自らの心霊体験を語っている。なんでも旅先のデンマークで、歩けなくなるほどの恐怖体験をしたらしい。そして最後には遠藤周作と同様、読者に情報を募ったりしている。やっぱり全然懲りてない。


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Posted byserpent sea

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