H・P・ラヴクラフト『壁のなかの鼠』

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 H・P・ラヴクラフト(Howard Phillips Lovecraft)著, 大西尹明訳『壁のなかの鼠』("The Rats in the Walls"『ラヴクラフト全集〈1〉』東京創元社 1974 創元推理文庫 所収)

 幽霊屋敷ものには、基本的に当該物件に住むか見物に行くか、という大まかな流れがあるだけに、それぞれの作者の個性が分かりやすい形で顕われていると思う。クトゥルフ神話で知られるラヴクラフトの幽霊屋敷は、予想通りというかなんというか、地下に戦慄の大空洞(←見ただけで失神する)が広がる、実にラヴクラフトらしい幽霊屋敷だった。

 この作品ははっきりと三つのパートに分かれている。まずは定番通り建物についての記述からはじまるが、最初からラヴクラフト節全開の設定てんこ盛り。古代から現在にいたるまでの建物の来歴に、主人公一族の歴史を絡めてずらずら解説される。うぁこのまま行くのかなと思いきや、主人公が屋敷で居住するようになってからは、クラシックな幽霊屋敷もののムードにがらっと変わる。小さな異変、とくに物音や飼い猫の挙動が細かく描写されている。これが非常にいい雰囲気で、本格幽霊屋敷ものっぽい。
 ところが怪異の原因が屋敷の地下にあるらしいと主人公が気付いたあたりから、またもや転調、いつもの感じの地下世界探訪記へと展開していく。このくだりにまたかよ!と感じるか、やっぱこうでないと!と感じるかは読者次第。個人的には冒頭にみっちりと書かれていた表の歴史を、ひっくり返して再度裏側からなぞるような構成はおもしろいと思った。

 思いついたことをとにかく徹底的に作品に盛り込む(たとえ箇条書になったとしても)という著者の作風は、その過剰さによって偏執的な凄みと拡張性を得て、いまだに熱烈なファンやフォロワーを産み続けている。比較的初期に書かれたこの作品にも、のちに『ピックマンのモデル』(←前の記事へのリンクです)や『狂気の山脈にて』などの名作として結実する設定や構想が散りばめられている。もちろんそういった作品との関連を意識せずに読んでも、興味深い作品だと思う。


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Posted byserpent sea

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