A・ブラックウッド『空き家』

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 A・ブラックウッド(Algernon Blackwood)著, 伊藤欣二訳『空き家』("The Empty House" 由良君美編『イギリス怪談集』河出書房新社 1990 河出文庫 所収)

 自分はこれまでに二度、町で噂のローカルな幽霊屋敷に行ったことがある。一度めは小学生のころ、友達に誘われて二人で隣町の空き家に行った。もちろん嫌々だ。

 目当ての空き家は堤防のそばにある和風の立派な建物だった。玄関は道路に面しているので、道路とは反対側の庭に回って自転車を隠した。庭には干上がった池があって、草木が伸び放題になってるのがそれっぽかった。
 家のなかには縁側から簡単に入ることができた。室内は和洋折衷な感じで、廊下や畳の上には足跡が残るくらい埃が積もっていた。カーテンが所々垂れ下がっていて、これがまた怖かったのだが、見る限り窓ガラスも割れてないし、家具類が手付かずに残っているのも不気味だった。
 ちょうど今くらいの季節の午後で室内は明るかった。庭に入った時点で結構びびっていたのだが、建物に入って数分後には、もうすでに帰りたくなっていた。雰囲気だけでお腹いっぱいだった。
 びくびくしながら一階を歩きまわって、一通り部屋を確かめたが、なかでも一番ぞっとしたのは食堂らしき部屋を覗いたときだった。
 そこはお勝手と八畳くらいの和室が合体した部屋で、ど真ん中に大きなテーブルと椅子が置かれていた。畳が腐ったのか根太が壊れたのか、テーブルを中心に部屋の床全体がすり鉢状に大きく凹んでいる。
 そのうえ多分羽根布団の中身だと思うのだが、白い小さな羽毛が部屋中に雪みたいに積もっていて、その下には激しく散らかったスプーンやフォークなどの食器が見えた。羽毛をかき分けると、畳の上には赤っぽい絨毯が敷かれているようだった。それまでは意外なほどきっちり整頓されてる雰囲気だったのに、そこだけめちゃくちゃに散らかってるのが衝撃的だった。
 実は二階も見て回る予定だったのだが、結局食堂でギブアップしてしまった。だから不思議な出来事はなに一つ目撃してない……って、これ単に廃屋に行った話ですね。

 一応その建物にまつわる噂も書いておくと、娘の自殺をきっかけに母親がおかしくなって、一家が離散したのが十年ほど前、その後、誰もいないはずの家に人影があった、真夜中になると二階の一室(娘の部屋らしい)に窓あかりが揺れている、というよくあるもの。正直まったく信じてなかったが、十年近く手付かずで放置されているというのは子供心にもちょっと不思議だった。その空き家はそれから数年後に取り壊されて、今では児童公園になっている。

 ……前置きが長くなってしまったが、この『空き家』の著者A・ブラックウッドは、イギリスのブライトンにある幽霊屋敷を訪れたことがあって、この作品はそのときの体験をヒントに書かれたのだそうだ。ブライトンはイングランドの南東部にある海辺の町で、有名な観光地。たまたま今夜やってたTVドラマ『バーナビー警部』の舞台になっていた(『名探偵ポワロ』にも保養地って感じで出てきました)。歴史のある町らしく、幽霊にまつわる話も多く残されていて、ほかにもこの町を舞台にした怪奇小説がある。

 登場人物は心霊好きのおばさんと、なかば強制的に幽霊屋敷を訪れることになったその甥の二人。ノリとしては前述の小学生の幽霊屋敷探訪と同じような感じだが、こっちにはばっちり幽霊が出る。死亡時の状況を延々と繰り返すタイプの幽霊で、その出方も登場人物の挙動の合間に現れては消えるというキレのある動きが描写されていて、かなり怖ろしい。ストーリーは幽霊屋敷突入→撤退というシンプルなものだが、二人の登場人物が魅力的なのと、緊張感のある描写のおかげで読み応えがあった。

 ところで最初に、幽霊屋敷には二度行ったことがあると書いたが、もう一つの方は行ったことがあるというより、住んでました。数年間。ただそれを知ったのが、その物件を出てからかなり経ってからのことだったので……。
 以前からたまに体験談っぽいことを書いているが、計らずもいわくありげな場所の近くをうろちょろしているわりに、まったくその手の体験がない。残念なようなほっとしたような気分だが、そういう才能に恵まれてないのだとつくづく思う。


 ※廃屋、廃墟であっても無断での立ち入りは住居侵入罪にあたることがあるので、肝試しなどの際にはくれぐれもご注意ください。


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Posted byserpent sea

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serpent sea  
Re: No title

>>ZANさん
こんばんは! コメントありがとうございます。

いやー、当時『呪怨』見てたら、100%行ってなかったですよ。
当時も嫌々でしたけど、見てたら全力で拒否してたと思います。

ZANさん が行かれたようなでっかい建物も嫌ですよねぇ
>>シャワールームに大きなゴミ袋が置いてあり、人がうずくまっているように見えて心臓が止まる思いをしましたw
これ、すごい分かります。
ああいったところにいると、ほんと何を見てもびくっ!てなるんですよね。

廃病院、廃校、誘われたことがあるんですけど、丁重にお断りしました。
とくに噂はなくても、やっぱ怖かったです。夜とか絶対無理。
今ではせいぜい建物やトンネルを外から(遠くから)眺めたり、
曰くのある石碑やなんかを写真に撮ったりするので精一杯です。

2014/08/18 (Mon) 00:12 | EDIT | REPLY |   
ZAN  
No title

こんにちは。

自分も昔、廃墟に何度か行ったことがあります。
肝試しのような目的ではなく、探検するのが目的でした。
ホテルの廃墟は外部の音も入ってこないし空気も重く、一般社会から途絶された空間でした。

シャワールームに大きなゴミ袋が置いてあり、人がうずくまっているように見えて心臓が止まる思いをしましたw

商業施設等の廃墟は恐怖心が薄いですが、serpent seaさんが行ったような住居は呪怨に出てくる家のイメージが強いので自分は絶対に行きたくありません!

2014/08/16 (Sat) 22:54 | EDIT | REPLY |   

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