押切蓮介『椿鬼〈1〉』

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 押切蓮介『椿鬼〈1〉』ぶんか社 2010 ぶんか社コミックス

 物語の舞台は山中か山里に限定されていて、時代設定もはっきりしない。村田銃が使用されていることから明治以降であることが推測されるが、この作品にとって厳密な時代設定がそれほど意味をなすとも思えない。ミニスカのマタギ少女が人知れずお山を守り、幼子がケモノを孕み、洞窟には人を喰ってる奴らがいる。荒唐無稽だけど、それでもそんなことが起こってそうな、微妙な世界観が上手く表現されていると思う。

 色々と興味深い要素が詰め込まれているが、本作品のハイライトは何といっても主人公のマタギの少女「椿鬼(ツバキ)」そのものだろう。高い画力で描き出された椿鬼は、薄暗い画面のなかで燐光を放っているかのように白くて美しい。作中でも白いとか柔らかそうとかいわれてるけど、そんなこと書いてなくても椿鬼の肌の白さやしっとりした質感が伝わってくる。素晴らしい表現力だ。
 椿鬼の登場するページとそれ以外とを比較すると、画面から受ける印象が全然違うことにも驚かされる。椿鬼の出てないページからは総じて暗く沈んだ印象を受けるし、出ているページには何ともいえない艶がある。椿鬼をより凛々しく、可憐に見せるために、すべてが用意されているような印象さえ受ける。

 ストーリーはお山とお山を穢す人々との対立があって、そこに椿鬼が関わっていくというもの。人を諭したりもするけれど、椿鬼は基本的にお山寄りのスタンスで、必要があれば人を殺めることも厭わない。
 毎話殺しあったりお山に殺されたりで、かなりの数の人間が惨死する。その派手な死に様もまた見所のひとつとなっている。人というよりもケモノじみてるキャラが多く、そのせいかあまり恐ろしさや悲痛さは感じられない。残酷だけど激しいアクションの描写が爽快感さえ感じさせる。

 本書には椿鬼が登場する三つの短編と、椿鬼は出てこないけど世界観を共有する好短編「ひかりの森」が収録されている。著者の卓抜した表現力は、本書以降もますます磨きがかかり、女の子もよりかわいくなっていく。あとおまけとして「椿鬼初期案」が載ってるんだけど、第四案、第五案にならなくて本当によかった。


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Posted byserpent sea

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