H・G・ウェルズ『海からの襲撃者』

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 H・G・ウェルズ(Herbert George Wells)著, 阿部知二訳『海からの襲撃者』("The Sea Raider"『ウェルズSF傑作集〈2〉』東京創元社 1970 創元推理文庫 所収)

 デビルフィッシュなんて不本意なあだ名で呼ばれて、ヨーロッパの一部地域で忌み嫌われてるタコ。映画でも古くはレイ・ハリーハウゼンの『水爆と深海の怪物』(1955)とか、タコ映画の代表作『テンタクルズ』(1977)とか、出てくれば決まって怪獣扱いされている。海外での興収を当て込んだ東宝の怪獣映画にも、唐突にタコシーンが挿入されていることがよく知られている。著者の出身国のイギリスは、タコを忌避する代表的な国の一つで、この作品にもそんな文化的な背景があるのだろう。

 ストーリーはびっくりするほどシンプルだ。人食いタコあらわる! → 主人公遁走。ほんとこれだけ。なのであまり書くことがない。しかし少ないページ数をめいっぱい使って、その状況がつぶさに描写されている。

 舞台はイングランド南岸の港町「シドマス」(シドマウス)。ストリートビューで見てみたところ、風光明媚ないいところのようで、観光客がいっぱい。熱海みたいな感じのところなのかな。海沿いの風景に強い既視感があったのだけれど、TVのポワロかマープルで見たのかもしれない。劇中で主人公がぶらぶら歩いている、赤い土の露出した「がけ道」もイメージそのまんまだ↓



 ここの岩礁で主人公は不自然な鳥の群れを見かける。不思議に思って近づいていくと、そこにただならぬものがあることに気付いた。漂着した溺死体を人食いタコの群れが貪り喰っていたのだ。この漂着物発見のくだりは、自分が当事者のように感じられるほどのリアリティでとても印象的だった。最初に書いた通りごく短い作品なんだけど、この冒頭のシーンをはじめ、タコの群れとの緊張感たっぷりの洋上バトルなど、全編充実した描写で読み応えがあった。
『タイム・マシン』や『宇宙戦争』などの有名な作品とは、かなり毛色が違うように感じられるが、著者はこの作品のような「UMAもの」っぽい短編をいくつも書いている。どれもおもしろい作品ばかりなので再読することが多い。

 ところで日本でタコというと、美味いし見るからにキャラが立ってるしで、親しみやすいイメージがあるけど、江戸時代の説話集を読んでいると、その得体の知れなさからか妖怪じみた扱いを受けていることも多い。墓場で死体を掘り起こしたり、ヘビと闘ったりと、まさにデビルフィッシュって感じの活躍をしている。


 ※著者名、地名などのカタカナ表記は、本の記述に準じています。
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