伊藤潤二『魔の断片』

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 伊藤潤二『魔の断片』朝日新聞出版 2014 Nemuki+コミックス

「伊藤潤二 8年ぶりのホラー 新刊コミックス!!!」(←帯のあおりより)ということで、さっそく買ってきた。八年ぶりといっても、傑作集も出てたし、なにより著者の作品は読み返す機会が多いので、全然そんな感じがしない。
 この本に収録されているのは雑誌『Nemuki+』に掲載されたシリーズ七編と、雑誌『シンカン VOL1』掲載の一編。「あとがき」には第一話について、ホラー勘が戻ってなかったからか「久しぶりのホラー連載としては不本意なスタートとなりました」とあって、確かにそんな感じがしなくもない。しかし、第二話めで勘を取り戻したかと思うと、第三話めにはもう完全復活してる。さすが。以下簡単に各話の雰囲気を↓

 第一話「布団」「この世には魑魅魍魎があふれてる」なんて言って、布団から出なくなった同棲中の彼氏と、健気にその世話を焼く彼女の話。インパクトの強い奇怪な絵面に重点を置いた構成で、著者ならではの奇想は発揮されていない。扉も含めて八ページの短編。作画は整っていて美しい。

 第二話「木造の怪」歴史のある木造建築に欲情するという、無茶な設定の女に入り込まれた家族の話。著者の復調具合がよく分かるエピソードだ。おもしろいのはこの木造フェチ女の造形で、やたらでっかいのが不気味。そのことについて劇中でまったく触れられないのもよかった。第一話と比べて作画がやや不安定。

 第三話「富夫・赤いハイネック」泣きながら自分の頭を両手で支える男が登場する。痛くてグロくて、不快感満点。その点ではシリーズ随一。いやーきもい。オチもわけが分からない。あの子供たちはいったい??

 第四話「緩やかな別れ」死者に対して独特の因習を持つ旧家に嫁いだ女性の話。グロ描写たっぷりな作品が並ぶなかにあって、そういった扇情的な描写を極力抑えた、切ないエピソードだった。

 第五話「解剖ちゃん」とにかく解剖されたい! というド変態な女が活躍する。著者独特のナンセンスさが光る一編。グロいシーンもばっちり。劇中で経過する「二十数年」のあいだ、彼女はどうやって過ごしてきたのだろう。死なない程度に何度も解剖されてきたらしいのだが……。ひたすら殺されては復活増殖した富江のように、連作のヒロインとしても充分なくらい、おもしろいキャラだと思う。

 第六話「黒い鳥」山中で遭難した男は一月ものあいだ、不思議な女に口移しで「食物」を与えられていたという。女は何者なのか、男が口にしていた食物の正体は? って話。少ないページ数に突飛な因果律を組み込んだ、著者の持ち味がよく発揮された好エピソード。ハーピーっぽい怪物も登場する。

 第七話「七癖曲美」人の極端な癖からインスピレーションを得る小説家に捕われた、気の毒な女性ファンの末路。これもハチャメチャなナンセンス系のエピソードで、小説家「七癖曲美」のキャラが嫌な感じで立ってる。

 第八話「耳擦りする女」自分ではなに一つ行動を選択できないという特異体質の資産家の娘と、彼女に雇われた付添人の女の話。この作品のみ雑誌『シンカン VOL1』に掲載されたもので、他のエピソードよりも五年ほど前に発表されている。ストーリーはごくシンプルで、早い段階でオチまで読めてしまうが、二人のキャラの様子がじっくり描かれていて読み応えがあった。グロい描写は控えめながら作画はとても美しく、なかでもp.211は素晴らしい雰囲気。ページ数も多い。

 というわけで読み終わってみれば、従来の著作と比べても何ら遜色のない短編集になっている。試行錯誤しながら描いてこれだけのものができるのはさすが。ただタイトルからして、自由に描いてOKって感じの発注だったのかもしれないが、シリーズものとしては少々まとまりに欠けているようにも思う。短くてキレのあるホラー作品を創造するのは本当に大変そうだけど、やはり著者にはもっとこのジャンルの作品を描いて欲しい。次回作が今から待ち遠しい。


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Posted byserpent sea

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