江戸川乱歩『魔術師』

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 江戸川乱歩『魔術師』(『江戸川乱歩推理文庫〈10〉魔術師』講談社 1988 所収)

 著者の大衆娯楽雑誌進出の第一弾『蜘蛛男』(←前の記事へのリンクです)は、「バカバカしい冒険怪奇小説」という著者自身の評価に反して、読者のハートをガッチリ掴んで大成功をおさめた。そのすぐあとにスタートしたのがこの『魔術師』。ストーリーも『蜘蛛男』事件の直後からはじまっている。本編の最初にまずこんな一文がある。

 素人探偵と恋愛。どうも変な取り合わせだ。ドイル卿はかつて、ある映画俳優から、ホームズに恋をさせてくれと申し込まれて、ひどく困ったことがある。それほど、探偵と恋は縁が遠いのだ。(p.9)


 話の枕としてはかなり唐突な感じがしないでもないが、この作品で明智探偵はめっちゃ年下の女の子と恋に落ちる。で、ほかの女子にもデレデレして、そのせいでピンチに陥ったりする。探偵がほいほい恋することについての賛否はともかく、これは大衆娯楽雑誌の読者に狙いを定めた新機軸なんだろうと思う。ただし恋愛要素は単に客寄せのための飾りではなくて、ストーリーにがっちり絡んでいる。というか恋愛要素なかったら明智探偵死んでる。
 
 ストーリーは「魔術師」を名乗る男の復讐譚で、動機としてはとくに目新しいものではないが、その手口の残虐さはやりすぎじゃないかってほどの凄まじさだ。人の頭部を切断したり、美女を生きたまま解体したりする。しかもその死体を衆人に晒すという鬼畜ぶり。実はこの解体のくだりは引用するつもりだったのだけど、これから読む人の楽しみにやめといたほうがいいかなと今思った。この解体シーンは、「魔術師」の数ページに及ぶ凄惨な断末魔とともに必読の名シーンだ。

 懸案の明智探偵の恋の相手は「魔術師」の一人娘の「文代」。18歳という設定。この子がなにくれとなく明智をフォローしてくれる。初対面からそんなだったから超一目惚れだ。「お父さんごめんなさい」などと泣いて謝りながら、迷わず明智探偵を選ぶような極端な一途さがおもしろい。好感度大。反対に被害者家族の次男坊「二郎」はひどい。敵かよ!ってくらいことごとく明智の邪魔をする、見事な「やる気のあるバカ」なキャラだ。恋人が殺されたのは気の毒だけど、いくらなんでもお荷物すぎて、読んでいてイライラしてしまった。ちょっとは『蜘蛛男』の野崎君を見習って欲しい。

 最初から最後まで勢いでガンガン飛ばす『蜘蛛男』と比べると、この作品はストーリーの起伏が激しいわりに、基本ねっとりと陰湿なところが乱歩らしい。冒険活劇のおもしろさ、探偵小説の残酷さに、恋愛要素もプラスされて、この作品もまた当時、非常な好評を博したという。もちろん今読んでもおもしろい。

 この作品をドラマ化したのが、少し前にCSで(また)やってた「江戸川乱歩の美女シリーズ」(天知茂版)の「浴室の美女」だ。明智探偵のライフスタイル等、原作との違いは多々あるのだけど、非常にうまくドラマ化されている。とくに「魔術師」役の西村晃は明智探偵を圧倒するほど存在感を見せる。西村晃はこんな感じの怪奇っぽい作品が大好きだったそうで、白塗りの「魔術師」を嬉々として演じている(壁の仮面のシーンではいつも笑ってしまう)。見どころ盛り沢山で、シリーズ屈指の好編。



『江戸川乱歩推理文庫〈10〉魔術師』
 講談社 1988
 著者:江戸川乱歩
 解題:中島河太郎
 巻末エッセイ・乱歩と私:中井英夫(作家)「鰻、背後霊、そして…」

 収録作品
 『魔術師』

 ISBN-13:978-4-0619-5210-2
 ISBN-10:4-0619-5210-2


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