レイ・ブラッドベリ『万華鏡』

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 レイ・ブラッドベリ(Ray Bradbury)著, 川本三郎訳『万華鏡』("Kaleidoscope"『万華鏡』サンリオ 1978 サンリオSF文庫 所収)

尽きることのない甘く苦い記憶をたどっている
浅い眠りのあと遥かな旅飛び立つ
二度と逢えないかもしれないけど
微笑み見せ「すぐに戻るさI Love you 」(※1)


 これは今から二十年近くも前に発表されたヤプーズのアルバム『ヤプーズ計画』の収録曲、『宇宙士官候補生』の一節。東京創元社から出てた同じタイトルのSF小説(ゴードン・R・ディクスン著)からインスパイアされた曲だと思う。見た感じ普通のラブソングっぽいけど、主人公(?)は「宇宙士官候補生」、今まさに遥かな旅に飛び立とうとしている。曲調は明るく希望に満ちた、いざ冒険に出かけよう! 的な分かりやすいものながら、歌詞の方はやけに切ない。戸川純の明朗な歌声の底にも、なんともいえない切なさが滲んでいる。

 自分でビデオをレンタルするようになって、最初のころに見たのが『2001年宇宙の旅』(1968)だった。やはりよく分からなかったし、最後の方で眠ってしまいそうになったけど、メカのかっこよさと映像の美しさには感銘を受けた。それから劇中で描かれる宇宙に、頭のてっぺんから何かをすーっと引き抜かれるような怖ろしさを感じた。今でもそこはかとなく宇宙は怖いって印象を拭えずにいるのだから、「2001年~」の威力はよっぽどだったのだろう。この怖ろしい宇宙のイメージは、大好物だった宇宙関連メカとともに、長いあいだ宇宙への好奇心の主燃料になっていたように思う。

 宇宙に関してもう一つ衝撃的な作品があった。それはNHKの『宇宙飛行士はこうして生まれた ~密着・最終選抜試験~』というドキュメンタリーだ。調べてみたら2009年に放送されている。ビジネスの分野において好評だったらしく、人材育成の講習会などでは、今でもこの番組に言及する講師がいる。
 このドキュメンタリーでは自分が好きだった宇宙や宇宙開発が、いかに情緒的なものだったのかを思い知らされることになった。なんか思ってたのと違う! って感じだった。現実の宇宙空間は宇宙飛行士にとって、冒険の舞台などではなく、あらゆる意味でこの地上と地続きの「職場」に過ぎないらしかった。当然、冒頭の『宇宙士官候補生』は「宇宙飛行士はこうして生まれた~」の延長線上には存在しない。あんな妹やこんな幼なじみが、現実にはどこにもいないのと一緒だ。

 たまに「パストフューチャー」って言葉を見かける。何用語なのかはさっぱり分からないが(SF用語? デザイン用語?)、「過ぎ去った未来」って感じの意味だ。過去に構築された未来像を懐かしく振り返るような、微妙なニュアンス込みで用いられることが多い。今になってみると、自分が好きだったのは「パスト宇宙開発」だったんだなと、しみじみ思う。バカみたいな話だけど、そんなことにようやくしっかりはっきり気付いたとき、大人ながら大人になったような、正直嫌な気分がしたのだった。

 レイ・ブラッドベリがどんな人だったのかは分からない(恐竜好きだったのは知ってる)。でもどの作品を読んでも、それが嫌な気分にさせる作品だったとしても、上記のような気分になる心配は一切なく、気持ちよく嫌な気分になれる。
 この『万華鏡』という作品は、ロケットの事故によって宇宙空間に投げ出された乗組員たちが、離ればなれに漂流しながら通信を交わし、やがて緩慢な死を迎えるというシンプルなストーリーだ。自らの人生を省みながら、乗組員たち穏やかに涅槃に入る。隊長は月に落下し、乗組員の一人は冥王星の方向へ、流星群と一緒に宇宙の深淵へ飛び去るものもいる。そして主人公は一つの願いを抱いて、流星のように燃えながら地球に落下していく。読後感は強烈に切なく、不思議と清々しい。

 またこの作品は石ノ森章太郎の『サイボーグ009』のもとネタとしても知られている(あと手塚治虫の『火の鳥 宇宙編』にも影響を与えているのではないかと思う)。「地下帝国ヨミ編」の有名なラストシーン、ラスボスを破壊した009と002が抱きあったまま大気圏に突入する。……そのとき地上では、物干し台から夜空をながめていた姉弟が一筋の流れ星を見つける。それは今まさに燃え尽きようとする二人のサイボーグの最後の輝きだった。

姉「ながれ星! ……きれい!」「カズちゃんなにをいのったの?」
弟「えへへ、おもちゃのライフル銃がほしいってさ」
姉「まぁ、あきれた」
弟「じゃ、おねえちゃんは……?」
姉「あたし? あたしはね、世界に戦争がなくなりますように……世界中の人がなかよく平和に暮せますようにって……いのったわ」(※2)


 ここだけ切り取るとベタだけど、死の商人と死闘を繰り広げたサイボーグ戦士たちへの手向けとして相応しい祈りだと思う。
 ブラッドベリの『万華鏡』のラストでは、自分の人生は虚しかったと省みる主人公が、たった一つの願いを胸に大気圏に突入する。

もはや彼は一個のものだった。悲しいとも嬉しいともなんとも思わない。ただ、すべてが終わったいま彼はひとつでもいいことをしたかった、自分ひとりにしかわからないいいことを。それだけが願いだった。
 大気圏にぶつかったら、俺は流星のように燃えるだろう。
「ああ」と彼はいった。「だれか俺を見てくれるだろうか」

 田舎道を歩いていた小さな少年が空を見あげて叫んだ。「お母さん、見て! 流れ星だ!」
 輝く白い星がイリノイ州のたそがれの空を落ちていった。
「願いごとをするのよ」と母親がいった。「願いごとを」(p.444-445)


 黄昏の空の流れ星、美しい印象的なラストシーンだ。ここでは主人公の願いがクローズアップされていて、少年の願いは具体的には書かれず、読者に委ねられている。

 ……なんかだらだら書いてたら、とりとめがなくなってしまった。やっぱりなに書くか考えてから書かないとだめだな。本当はこの作品はすごく良くて切ないよ、みたいなこと書きたかっただけなのに。最後に『宇宙士官候補生』を彷彿とさせる防人の歌を引用してみる。奈良時代に詠まれた歌だ。なんとなく結びっぽくなるかな。

白波の寄そる浜辺に別れなばいともすべなみ八度袖振る (大舎人部祢麻呂)



 ※1. ヤプーズ『宇宙士官候補生』(小泉敏郎作詞, 小滝満作曲, アルバム『ヤプーズ計画』1995 収録)
 ※2. 石ノ森章太郎『サイボーグ009〈6〉』秋田書店 1968 Sunday comics 大長編SFコミックス p.237

 ※コミックからの引用は、読みやすいように改行を調整しています。



『万華鏡 ブラッドベリ自選傑作短編集』("Kaleidoscope")
 サンリオ 1978 サンリオSF文庫
 著者:レイ・ブラッドベリ(Ray Bradbury)
 訳者:川本三郎

 ISBN-13:978-4-3878-6165-2
 ISBN-10:4-3878-6165-7


  ヤプーズ『ヤプーズ計画 [CD]』テイチクエンタテインメント 1995
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Posted byserpent sea

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