手塚治虫『ドン・ドラキュラ〈1〉』

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 手塚治虫『手塚治虫漫画全集 MT248 ドン・ドラキュラ〈1〉』講談社 1982

 カバーの紹介文にある「怪喜漫画」という表現がぴったりな、一話読み切り式のコメディ。屋敷の移築に伴ってトランシルヴァニアから東京に移り住んだドラキュラ伯爵と、その愛娘チョコラの日常と騒動を描く。現代(1979年当時)の東京で、古典的な吸血鬼のスタイルをどこまでも貫き通そうとする主人公の悪戦苦闘ぶりがおもしろ切ない。
 この作品は大ヒットした『ブラック・ジャック』に続いて、『週間少年チャンピオン』誌に1979年5月28日号から12月10日号まで連載されたもので、当時はあまり注目されなかったらしいが、今読んでも充分楽しめるし、チョコラもかわいい。

 主な登場人物は、血統とその爵位に並々ならぬ誇りとこだわりを持つ主人公、吸血鬼の「ドン・ドラキュラ伯爵」。最近は日本の文化習俗に染まりつつあり、血液以外の食物も摂ることができるので、こっそりカップラーメンを食べてたりする。それ以外はポピュラーな吸血鬼の設定をほば踏まえていて、弱点も多い。陽光を浴びてよく灰になっている。銃撃されても平気だが、娘には滅法弱い。
 伯爵の一人娘「チョコラ」は、普通の中学生として夜間中学に通う本作のヒロイン。SF研究会に所属。会長の「ノブヒコ」くんに恋をしてる。父親思いで、脱ぎっぷりもいい。ものすごく可愛らしい。そんなチョコラと双璧をなすのが、なにげに登場回数の多い「ブレンダ」。日本に来たばかりの伯爵がうっかり血を吸ってしまったという女で、それ以来に伯爵につきまとっている。非常に個性的な容貌で肥満。
 吸血鬼ものに欠かせないヴァンパイアハンター「ヘルシング教授」も、長年イボ痔に悩まされているという妙な設定つきでしっかり登場。伯爵を捜してチョコラの中学に赴任してくる。またこの巻には、300年前に別れたという伯爵のもと妻で、チョコラの母親「カーミラ」も登場する。犬に変身して平気で人を惨殺するが、それが離婚の一因となったらしい。

 基本的にはドタバタコメディだけど「第3話 やっぱりドラキュラ」のように、社会風刺を含んだややホラー分濃いめの話もある。空き家となった塾に残留した子供たちの怨念が、足を踏み入れた者を殺す。そんな建物の一室を、よりによってSF研究会が間借りしてしまったから、チョコラが襲われるはめに。伯爵の活躍で事件は解決するが、娘のために戦う姿がいつになくかっこいい。
 チョコラの母親が出てくる「第7話 ドラキュラ VS カーミラ」もB級ホラー映画みたいなタイトルだけど、わりとシリアスだった。チョコラの出生や、母親の体質を受け継いだので実は水に濡れても平気、などのヒミツが明かされる。チョコラファンには興味深い話。

 本書には全8話を収録。この手塚治虫漫画全集版のほか、最初に出た少年チャンピオン・コミックス版も現役。昨年、文庫サイズでも刊行されている。


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Posted byserpent sea

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