岩井宏實『暮しの中の神さん仏さん』

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 岩井宏實『暮しの中の神さん仏さん』河出書房 1989 河出文庫

 諸星大二郎の「妖怪ハンター・シリーズ」に『六福神』というエピソードがある。宝船に乗った「六福神」が毎年七人目を求めてさまよっているという話だ。七人目が見つからないときは「寿老人」が長い頭をちぎって、自分のコピーである「福禄寿」を作っているらしい。おもしろい記述がある。「そもそも「七福神」というものは室町時代に既にあったらしいが、七人のメンバーが最初からはっきりしていたわけではない。ふつう、大黒、恵比須、毘沙門天、弁財天、寿老人、布袋、福禄寿の七人だが、現在でも寿老人と福禄寿は同じものだからとして、一人を除いて代わりに吉祥天や、猩々を入れたりもする」(※1)
 どこまでが創作なのか分からないところも諸星作品の魅力の一つだが、この「寿老人」と「福禄寿」に関する記述は著者の創作ではない。この二柱の神さまは、生まれ故郷の中国でもしばしば混同されることがあるらしい。ちなみに代打で投入される「猩々」(しょうじょう)は、たまに引用する『山海経』にも出てくる怪生物で「獣がいる、その状は禺(さる)の如くで白い耳、伏してあるき人のように走る、その名は(しょうじょう)。これを食うとよく走る」(※2)「(しょうじょう)は人の名を知る。この獣は豕(いのこ)のようで人面、舜葬の西にあり」(※3)という記述がある。そして限りなく人間っぽい様子で、片手で花をつまみ、もう片手で子供の手を引いた微笑ましい猩々の図が付されている。日本でも説話や「能」などの芸能、祭礼に登場するから、まずまずメジャーな妖怪(?)だと思う。個人的には熊倉隆敏の『もっけ』の一エピソードが印象深い。ずばり「ショウジョウ」というサブタイで、酔っぱらった静流がゲロを吐く回だ。

 今日書こうと思ってたことと全然違うことを書いてしまっているが、上記のようになんとなく「七福神」が気になっていたときに、あまり深く考えずに買ったのが本書『暮しの中の神さん仏さん』だった。「神さま仏さま」じゃない気安さが、日本人と神仏の関係性を端的に表しているようでおもしろい。実は「七福神」については載ってなかったのだけれど(大黒と恵比須については載ってた)、予想以上に興味深い内容で楽しく読むことができた。
 で、その内容はというと、メインは民間で信仰される四十一柱の神仏についての解説。「金比羅は梵語クンピーラ Kumbhira の音訳で、元来、ガンジス川に棲むワニが神格化された神で、インドでは仏法の守護神とされていた」(p.95)←こんな感じでそれぞれの神仏の由来と、信仰の形態、民話、伝説や各地の年中行事が多くの資料を典拠に書かれている。なかには聞いたこともない神さまもかなりあった。「オシラさま」のように本から得た知識じゃなくて、お参りをしたり祠を覗いたりして自分が実際に接したことのあるものは「お稲荷さん」「天神さん」「恵比須さま」「大黒さま」「庚申さま」「荒神さま」「山の神」「道祖神」「金比羅さま」「文殊さん」「お薬師さま」「お不動さん」「観音さん」「馬頭観音」「お地蔵さん」の十四柱。メジャーどころばっかりだった。それから「日本人の祈りのかたち」として「絵馬」や「御札」についても一章が割かれていて、こっちも興味深く読むことができた。……以下さらに話が逸れてます↓自分が見聞きした話。

 高齢化は進行しているものの、大昔から戸数の増減がまったくないという山間の集落がある。「あの××には鎧兜を埋めた」「××には旗が納めてある」といった感じの、お約束の落人伝説が伝わっているのだが、聞いているとなかなかリアルで、ほんとなんじゃないかって気がしてくる。さらに武具を代々保存している家がある。屋敷の梁の上の普段は目につかない場所に、蓋のついた細長いスペースが設けられていて、そこに真贋はさておき、見るからに古そうな武具が納められている。まるで忍者屋敷みたいだ。
 実はこの集落は過去に大学の調査地(多分予備調査の段階)となっていたのだが、住人の誰もが華麗に調査をスルーしたらしい。古文書、というか書きつけ(?)らしきものも大量に残っていて、せめてこれくらいは調べてもらえばいいのにというと、他所の人は信用できないからとのことだった。というのも以前集落の某家が軸を鑑定に出したところ、そのうちの何軸かがすりかえられて戻ってきたらしい。もちろん無価値という評価付きで。もともと排他的な土地柄ではあったけれど、その出来事があって以来、村中が調査や鑑定に極端に非協力的になってしまっているのだ。
 ↑この集落の山道に「スイジンさんの舞台」と呼ばれるでっかい岩がある。長辺が1.5メートルほどの歪んだ直方体の岩石で、上面が綺麗に平らになっている。といっても人の手で加工された様子はなく、山の上からゴロンゴロンと転がってきて、たまたま平らな破断面を上にして現在の場所に止まったって雰囲気だ。「馬蹄石」のような顕著な特徴も見られない。ヒラヒラのついた簡素なしめ縄で飾られ、上面に木片を燃やした痕跡がある。
 この岩の上で「スイジンさん」が踊るのだそうだ。この「スイジンさん」が何者なのかについてはさっぱり分からない。「水神さん」かと思って聞いてみたけれど、いまいちピンとこない様子で、漢字は分からないといっていた。もちろん由来も分からない。それでも「スイジンさんの舞台」が、なにがしかの神さま関連のアイテムであることに間違いはないらしい。
 あるときこの「スイジンさんの舞台」が持ち去られるという事件が発生した。被疑者は近隣(といってもかなり遠いけど)の町の造園業者で、業者名の入ったトラックへの積み込み作業を何人もの住人が普通に目撃していた。誰も止めなかったのかと突っ込みたくなるところだが、誰の所有物でもないからとのことだった。反応が微妙に薄かったことを覚えている。
 後日聞いたところによると「スイジンさんの舞台」は、持ち去られて一ヶ月もしないうちに、もとあった場所に返されてきたらしい。くだんの業者がトラックでやって来て置いていったのだという。怪談めいた展開を期待してしまうが、残念ながらこれ以上のことは分からない。ただ、しめ縄が新しく、ちょっと豪華になったといっていた。

 この「スイジンさんの舞台」は、本書で言及された神仏のなかでは「野神祭り」の「ノガミ」に似ているように思う。「近畿地方の農村に集中して、ノガミと呼ぶ神がまつられる。村はずれの田畑のなかや、川のほとり、山裾や神社の境内にまつられ、多くは塚や古木で、なかに石や小祠などを依代にしているものもある。ふだんは祟りを恐れて近づいたりさわったりしないのがふつうである」(p.71)とあって、ここだけ読むとそっくりだ。この手の神さまは総じて農業神の性格をもっているらしい。ただ全然違うところもあって、色々なスタイルでまつられている「ノガミ」と比べて、「スイジンさんの舞台」の場合は特別な祭祀が行われている様子が全然ない(しめ縄は定期的に取替えているらしい)。どんなご利益ががあるのかも分からないという。きっと全国にはこんな感じの超地域密着型の、よく分からない神さまが沢山あるのだろう。本書ではそんな神仏の群像と、様々な信仰のあり方をかいま見ることができる。

 それから巻末には付録として『現代願懸重宝記』が収録されている。全国各地の神仏の「御利益」「社寺・神仏名」「所在地」「祈願方法または内容」を一覧表にまとめた大変な労作だ。例をあげると「御利益/頭痛」「社寺・神仏名/七所明神」「所在地/山形県新庄市宮内町」「祈願方法または内容/頭髪・帽子を奉納」(p.181)、「御利益/蝮除け」「社寺・神仏名/諏訪神社」「所在地/佐賀県東松浦郡浜玉町」「祈願方法または内容/砂とお札をうけて門口につる」(p.216)、「御利益/縁結び」「社寺・神仏名/ライセキさん」「所在地/兵庫県神戸市垂水区神出町」「祈願方法または内容/アワビに干支を書いて奉納」(p.217)、といった感じで、神頼みしたいときにすごく便利な一冊。

 ※1. 諸星大二郎『六福神』(『妖怪ハンター 稗田礼二郎のフィールド・ノートより 六福神』集英社 1998 ヤングジャンプ・コミックス 所収 p.131)
 ※2. 高馬三良訳『山海経』(本田済, 沢田瑞穂, 高馬三良編注『枹朴子・列仙伝・神仙伝・山海経』平凡社 1973 中国の古典シリーズ 所収 p.458) (しょうじょう)の「しょう」の文字は「けものへん+生」
 ※3. 同上 p.493



『暮しの中の神さん仏さん』
 河出書房 1989 河出文庫
 著者:岩井宏實

 ISBN-13:978-4-3094-7187-0
 ISBN-10:4-3094-7187-7
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