松村進吉『「超」怖い話 Ξ(クシー)』

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 松村進吉編著, 久田樹生共著『「超」怖い話 Ξ (クシー)』竹書房 2009 竹書房文庫

 先日は20年以上も前の本について書いたので、今日は同じシリーズでももうちょっと最近の本を取りあげようと思う。とはいえこの本も、出てからすでに5年も経ってるのだけれど。

 本書は勁文社版から数えて25冊め、著者はじめての編著担当本だ。ほどよい長さの、粒揃いのエピソードが40話収録されている。「まえがき」も「あとがき」もないことについては、そっけないというより、著者の並々ならぬ気合の表れのように思う。
 とくに興味深かったエピソードは↓

「ひやむぎ」小学生だった体験者が、京都の親戚の家を訪れたときの話。みんなで昼食のひやむぎを食べていると、突如奇怪な姿の男の子が現れて食卓を荒らした。白昼、複数の人々の目の前で起こった出来事である。それにも関わらず、その場にいた親戚たちは一連の出来事を忘れてしまっているという。
 体験者は記憶が不自然に消えていくことの不安に重きを置いているが、インパクトがあるのは男の子の容姿。とても普通の人間とは思えない。妖怪、闇堕ちした座敷童って感じ。

「ホーム」体験者の部屋は駅のホームを真正面から見下ろす位置にある。あるとき終電のあとの薄暗いホームに、母子らしい二人連れの姿を見つけた。最初のうちは終電に乗り遅れたのかと思って眺めていたが、どうも様子がおかしい。二人の目がチカチカと光っているように見える。やがて母子の二対の目が、まっすぐに体験者の方を向いた。
 安全圏で傍観を決め込んでいた体験者が、一転して当事者に。その落差のある構成が素晴らしい。かなりテクニカルなエピソードで、落ちもナイス。

「警告者」体験者が殴りつけた彼女が部屋から飛び出して、しばらくするとインターフォンが鳴った。彼女が戻ったのかと出てみると、インターカムの小さな液晶画面に映ったのは、見ず知らずの女の不気味な顔だった。パニックに陥った体験者が慌ててドアを開けると、そこには……。
 インターフォンとドアスコープにまつわる怪談は、この「「超」怖い話 ・シリーズ」にもいくつか収録されているが、今回はモニター付きドアフォンだ。目の前のドアを一枚挟んだところになにかがいる……って不安感こそ軽減されたものの、ドアスコープからモニターになっても怖さは相変わらず。あの粒子の粗いコントラストのきつい画面は、魚眼のドアスコープと甲乙付けがたい。体験者の部屋を訪れた女は、山岸涼子の『汐の声』に出てきたアレと同じタイプの異形で、なにやら呟いていたというが、体験者はそれを聞き取れていない。ただなんらかの「警告」のように感じたという。

「十五年」青春実話怪談。高校生だった体験者には親しい女の先輩がいた。彼女は教師と不倫をしていて、その妻の生霊に悩まされているらしい。さばさばとしていて明るく、色恋沙汰とは縁遠く見えた先輩。そんな彼女が不倫の泥沼から抜け出せずに苦しんでいる。体験者は一連の出来事から目を逸らしてしまって、なにもできずにいる。怪異自体には目立った特徴はないものの、この「青春」っぽいテイストは著者の持ち味の一つで、それぞれの登場人物が実にいきいきと描かれている。怪談には珍しく読後感が清々しい。甘酸っぱい。

「鋸の傷」体験者の実家の庭木にノコギリの傷がつく。誰の仕業かは分からない。ただその傷が十本になると、体験者の家族が一人ずつ死んでいく。そこで件の庭木を監視することになった。真夜中、庭木を見張っていた体験者と父親が見たものは……って話。なにかの祟りのようでもあるが、意外な犯人像にはファンタジーっぽさを感じてしまう。ナチュラルに邪悪な妖精ってイメージだろうか。

「赤とサイレン」肝試し系怪談の傑作エピソード。深夜、体験者たちが向かったのは町はずれの廃屋だった。廃屋の周囲には民家はない。電気も通ってないはずだった。にもかかわらず、目的の廃屋のひとつの窓が真っ赤に発光している。体験者の静止を振り切って、仲間の一人がその窓に歩み寄った。
 肝試しに行って、なにかを目撃、逃げ帰ってくるという定番の構成ながら、強烈な赤のイメージとただならぬ緊張感が印象に残った。幽霊も出る。

「残滓」霊能者が登場して、活躍したりしなかったりする話は数あれど、このエピソードはかなり変わっている。化けて出るのが体験者の部屋を祓った「霊能者」自身なのだ。彼女がなぜそうなってしまったのか、経緯はまったく分からない。ただ生前の彼女の胡散臭さはよく伝わってくる。オチは体験者の友人が一枚噛んでいるように匂わせていて、エピソードに奥行きを感じさせる。

 最初に書いた通り、著者の気合が見事に反映された好著となっていて、上記のほかにも「みな」「ミニカー」「ブーゲンビリア」「判断力と公開」など、印象的なエピソードが多数収録されている。丁寧に作られた感じの本で、シリーズの中でも読み返すことの多い一冊。おすすめ。



『「超」怖い話 Ξ (クシー)』
 竹書房 2009 竹書房文庫
 編著:松村進吉
 共著:久田樹生

 ISBN-13:978-4-8124-3885-5
 ISBN-10:4-8124-3885-3
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Posted byserpent sea

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