森浩一『巨大古墳』

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 森浩一『巨大古墳 - 治水王と天皇陵』講談社 2000 講談社学術文庫

 日本列島には大小様々なサイズの古墳が15万基以上もあるのだそうだ。150,000基、ちょっと調べてみたらコンビニのおよそ3倍くらいの数だ。うちの場合、徒歩で行ける範囲にコンビニが3店舗あるから、単純計算で9基の古墳があるはずなんだけど、見当たらない! きっとどこかの地域が古墳を独占しているに違いない。そういえば三重県出身の知人によると、リフォームしようと家を壊したところ、土器やなんかがどんどん出てきて、教育委員会の調査が入ってしまって工事がちっとも進まない、なんてことがざらにあるらしい(←不正確な情報です)。うらやましい!
 15万基というなかには、「昔あって今はもう地上から姿をけしているものでも何らかの方法で存在のわかるのはくわえてある」(p.12)というから、もしかして超近所にあるのに気付いてないだけなのかもしれないけれど……。

 本書では全国で54基あるという全長160メートル以上の古墳を「巨大古墳」としている。その筆頭はもちろん大阪の堺市にある「大山古墳」(大仙古墳)、「仁徳天皇陵」だ。古墳の名称についてはちょっとややこしい。「大山」「大仙」は古墳の形状を、「仁徳」は被葬者を表していて、それに「古墳」「陵」「御陵」「帝陵」などをくっつけて用いているから、組み合わせのバリエーションが多くなってしまって、長らく混乱を来しているというのだ。歴史の教科書には「仁徳天皇陵」って載ってた覚えがあるが、現在においても名称の混乱は続いていて、一応上記のどの名称を用いても間違いではないってことになってるらしい。宮内庁ではこの古墳を「百舌鳥耳原中陵」(もずのみみはらのなかのみささぎ)と呼んで、仁徳天皇の陵墓と治定している。本書では被葬者の学術的な裏付けがとれないことと、命名の通例を踏まえて「大山古墳」に統一されている。

 よく知られてるように、この「大山古墳」を含む宮内庁が管理する天皇陵は、域内への一般の立ち入り、学術的調査が厳しく制限されている。そのおかげで美しい形で保存されているともいえるが、反面実地調査は全然進まず様々な学説が入り乱れる原因になっている。本屋の歴史コーナーに古墳時代関連の書籍が沢山並んでいるのは、この宮内庁の方針のおかげといえなくもない。
 それじゃそういう古墳をどうやって研究しているのかというと、少なくとも本書が書かれた時点では「眺める」「文献を調べる」がメインだったらしい。もちろん発掘可能な古墳との比較や、過去に何らかの形で流出した副葬品などの研究も行われているのだけど、考古学というより文献史学って感じだ。この辺については文中のあちこちから著者の忸怩たる思いが伝わってくる。「何カ所か掘らせてもらえれば……」的な記述もたびたび出てくるのだが、骨董品を愛でるような、ほっこりした雰囲気が漂っているのが印象的だった。学問云々以前に、著者はまず古墳が大好きなんだろうなって感じ。

 本書は1981年に書かれた本の文庫版で、最初の本が出版されてから今年で30年以上も経っている。この間に色々な情報が更新されているには違いないけれど、古墳についての基本的な知識の解説はとても分かりやすく、現在も充分に有用だと思う。また古墳研究の歴史の紆余曲折ぶりに多くのページが割かれていて、読み物としても興味深い。
 これまで古墳は様々な動機で、各時代に破壊されてきたらしい。とくに1970年代以降の開発によって「古墳破壊にすさまじい速度をくわえた」(p.96)という。実際に見てみると堺市の「大山古墳」は単なる森で、とてもお墓には見えないけれど、あの「町中にいきなり森!!」って感じはやはりおもしろいし、素晴らしい。この先、あの美しい状態を維持しながら、学術的な研究の方も少しずつでも進めばいいなと思った。



『巨大古墳 - 治水王と天皇陵』
 講談社 2000 講談社学術文庫
 著者:森浩一

 ISBN-13:978-4-0615-9443-2
 ISBN-10:4-0615-9443-5
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Posted byserpent sea

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