つのだじろう『学園七不思議〈2〉』その2 完

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  つのだじろう『学園七不思議 赤尾学園編』(『学園七不思議 (2)』秋田書店 2002 秋田文庫 所収)

 ──『学園七不思議〈2〉』その1から続く。

「学園七不思議」最後の舞台は「私立黄泉学園」。「黄泉」は「よみ」でなく「こうせん」と読む。学園のある「黄泉町」は山間の温泉町で、硫黄の吹き出す泉源があることからその名が付けられたらしい。

 主人公は黄泉学園3年A組、放送委員の「三条みずえ」。「一条みずき」「二条みずほ」ときて「三条みずえ」なんだけど、もちろん深い意味はない(と思う)。デザイン的には髪形の違和感が劇的に改善されて、つのだ分濃厚な好ましいものになっている。性質はこれまでの主役キャラと同様の巻き込まれキャラで、猫のように忘れっぽくヘビーな事件にも平然としている。
 今回は全話通じて登場するようなお助けキャラが設定されていないが、ばっちりつのだ霊能者顔の同級生「月岡さん」が数話主人公と行動をともにする。また主人公を救う強力な霊能者として、名作『霊劇画 恋人は守護霊さま』のヒロイン「南郷涙子」がゲストっぽく登場。キャラデもほぼそのままで、つのだファンには見逃せないポイントだ。

「その1 通用門」
 このエピソードでは三人が消える。まず学校裏の通用門を通って帰宅したはずの女生徒が。次に主人公のみずえから、通用門のただならぬ雰囲気を伝え聞いた保健の先生が「フフ……こう見えてもかなり霊感強い方なのよ! 霊魂の研究も多少はしてるし……」(p233)なんて言いながら消える。この一連の現象の鍵は通用門にいる少女の霊らしい。みずきたちが相談した霊能者の老婆によって、通用門に幽界の穴が開いていることが判明、少女の霊が人を幽界に引きずり込むという。どうにか幽界の穴を閉じることには成功するが、すんでのところで老婆の姿も消えてしまう。
 魔界から魔物が集まってきていた「青嵐学園編」第1話を彷彿とさせる一編。登場シーンは少ないけれど、通用門の傍らにうずくまる少女の霊のビジュアルが印象的だった。瞳が★になっているのがおもしろい。三人のうち二人は自分が誘導したにも関わらず、主人公のみずきのリアクションが薄々なのは、本シリーズの主人公に共通する性格的特徴だ。一応舞台設定を説明しながらのストーリー展開だが、ややページ数が足りてない感じ。

「その2 校内放送」
「苦しい……!! 苦しい……! だれか助けて……」(p.246)。そんな奇妙な校内放送が流れた。放送室は無人、機械的な故障でもないらしい。実はその声の主はこの地に眠る大昔のお姫さま(?)の霊で、学校の下に死体が埋まっているのだという。霊に憑衣された女性教諭は、みずきたち放送委員を動員して体育館横の地面を掘らせようとするのだが……。
 かなり地味めな出だしから、びっくりするような伝奇的展開を見せる。前話に続いてみずきが積極的に心霊現象に関わっていて、最終的には大事になってしまってる。同好の志か、しっかりとしたアドバイザーが欲しいところ。幽霊は声だけで姿を現わさないが、先生に憑衣して大活躍する。タイトルの「校内放送」に関しては最初の少しだけ。

「その3 夏の合宿」
 月岡さん登場回。黄泉学園では毎年夏休みに合宿がある。富士五湖の西湖でキャンプをすることになったみずきは、クラスメイトとともに青木ヶ原の散策にでかけるが、そのなかの一人、月岡さんが行方不明になってしまう。みずきもまた月岡さんを捜すうちに樹海で道を見失う。二重遭難だ。樹海のまっただなかで偶然にも出会った二人は、ともにチューリップハット&しましまTシャツの女性ハイカーに導かれたと語る。そのハイカーの正体とは……。
 これ学校七不思議か?って気がしないでもないが、定番のストーリー展開で安定感は抜群。少ないページ数で樹海の雰囲気をうまく演出している。月岡さんもみずき同様の霊感体質でどうやら仲良くなった様子。

「その4 霊媒体質」
 これもまた「その2」と同じく「霊の声」という地味めな現象からはじまり、結構派手に跳躍する物語だ。「声」を聞くのは歴史の男性教諭ともう一人、ある女生徒だった。二人は同じ霊媒体質の持ち主らしい。声に取り憑かれた教諭は意識のないまま暴れ、ついにはみずきを殺害しようとする。絶体絶命かと思われたそのとき、霊能者の南郷涙子が颯爽と登場する。
 なんか登場する先生が片っ端からとんでもない目にあってるんだけど……。酸いも甘いも噛み分けた南郷涙子は盤石って雰囲気。ものすごく頼れそうな感じ。このエピソードでは、霊聴に関する読者からの相談にもさらっと答えていて、著者のサービス精神を窺うことができる。

「その5 屋上の影」
 校舎の屋上に出るという幽霊の噂の真偽を確かめるため、半信半疑で屋上に陣取るみずきと月岡さんだったが、噂通りに現われた影のような幽霊に月岡さんが憑衣されてしまう。そんな月岡さんから霊を祓ったのは、パンチラをものともしないみずきの強烈な飛び蹴りだった。しかし霊は祓われただけで成仏しているわけではなく、最終的に決着をつけてたのは、またしても南郷涙子だった。
 渦巻くような霊の描写と激しいアクションが目を引くが、それよりも放課後の屋上の雰囲気や、夕方仲良く下校するみずきと月岡さんなど、なぜか静的でほっこりするシーンが印象に残る。効果的にメリハリがつけられている証左だろう。このエピソードと次の「その6」は、読み応えのある「黄泉学園編」のなかでもとくに力の入った好編だと思う。

「その6 不浄霊」
「不浄霊」とは通常、浄霊(除霊)されていない怨霊や悪霊など、人に禍いをなす霊のことをいう。ある宗教団体の宗教儀式だった「浄霊」という言葉が作られたのが戦後すぐのことだから、現行の意味を持つ「不浄霊」という造語はそれ以降に作られたと考えて間違いはないだろう。なにやらいわくありげな言葉だけれど、「コンピュータ」とか「インメルマンターン」などの言葉よりもずっと新しく、不二家の「ペコちゃん」と同じころに成立している。ところが本エピソードのタイトルはこの「未浄化な霊」という意味のほかに、もう一つ「ご不浄の霊」という意味あいを含んでいる。ダブル・ミーニングってやつだ。これ思いついたときの著者のしたり顔が目に浮かぶようだ。そんなわけで「次はトイレでおこった怖〜いお話よっ」(p.366)
 女子トイレのある個室に入ると、誰かの視線を感じる。そんな噂が学校に広まった。やむを得ずそのトイレを使用したみずきもまた噂通りの視線を感じる。ふと見下ろした便槽のなかには、こっちを覗く二つの目。その正体とは……というこれまたシンプルなストーリーながら、トイレ怪談の名作をものにしてきた著者の手にかかって、「おシッコ」「ウンチ」などの語彙が飛び交い、女子高生のパンチラ、排尿シーンが盛り沢山の、読み応え満点のエピソードとなっている。ここでも最後の決着は南郷涙子がつけるが、女性の場合トイレで「気のゆるんだ瞬間に、下から霊魂を吸い込んで憑衣されるんです!」とのこと。吸い込むんだ!

「その7 おいでおいで」
 最終話。「その1」の三人に対して、この話では一人の生徒が消える。
 放課後、用具室の前を通ると、音もなく戸が開いて白い手がおいでおいでをするという。その手招きに導かれた先には一体なにがあるのだろうか……。このエピソードには月岡さんも南郷涙子も出ない。噂の真偽を確かめて欲しいとクラスメイトに頼まれたみずきが、たった一人でその問題の解決に向かう。あっさり風味ながら「その1」と対をなす構成になっていて、「黄泉学園編」「学園七不思議」全編の最後を飾るのになかなか相応しいエピソードだと思う。

 という感じで『学園七不思議』は終了。「あとがき」に「この作品を描き始めたころは、すでに私のオカルト研究も相当進んでおり、作品内容もかなり粒がそろっていると思います」とある通りの、良質な作品に仕上がっている。最後に霊能者が出てきて終わりって感じのオチが多いから、そこだけに注目するとやや単調にも感じられるが、そこにいたるまでの展開に様々な工夫が凝らされているため、またかよ!って印象はない。また作画に関しては、これまでさんざん違和感について書いたけれど、尻上がりに良くなっていて、「黄泉学園編」の終盤にはモブも含めたほとんどの登場人物がしっかりつのだキャラになっている。

 それから前巻の稲川淳二の解説を意識したのかしてないのか、著者による「あとがき」もその1/4ほどが「子供のころに聞かされた学校怪談の定番の紹介」にあてられている。ここで紹介されるのはまさに定番「墓場の骨かじり」の話で、「この辺で恐ろしげに声をひそめ、あとを続ける」とか「話し手は突然、聞いている一人を指し、大声で叫ぶのです。これ結構怖いよ!」という具合に、話し方にいちいち注釈が入っている。この「あとがき」、おそらく口述を文字で起こしたものだと思われるが、著者の無邪気な人となりやそのサービス精神がよく表れている。
 著者は数多くの作中に無邪気に登場して自説を開陳しているが、例えば照れ隠しに「ヒョウタンツギ」を描いた手塚治虫と比べて、なんという無邪気さ、衒いのなさか。この無邪気さが作品のなかで発揮されたとき、恐怖描写はより鮮烈な、忘れがたい魅力を得るのだろう。

 ※フキダシからの引用は、改行を調整しています。



『学園七不思議〈2〉』
 秋田書店 2002 秋田文庫
 著者:つのだじろう

 ISBN-13:978-4-2531-7211-0
 ISBN-10:4-2531-7211-3
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Posted byserpent sea

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