小松左京『湖畔の女』

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 小松左京『湖畔の女』(『湖畔の女』徳間書店 1983 徳間文庫 201-4 所収)

「憑き物」について先日の『学校の怪談大事典』(←前の記事へのリンクです)には「なにものかの魂や意思が人間のからだにとりついて、その人間の意思とはことなるいろいろな行動や現象をきたさせる超自然的なもの」(※)とある。なかでも動物霊の憑き物はよく知られていて、その代表は「狐」、それから「犬神」「蛇」「猫」「狸」と続く。

 この『湖畔の女』の舞台は、ちょうど今ごろの季節の琵琶湖。初老のSF作家が湖畔で美しい女と出会う。女は蛇に憑依されているという。といっても『道成寺』の清姫みたいに怒りのパワーでドカンと変身するわけではなく、獲物に絡み付き、締め上げ、呑み込もうとする蛇のように、人格が豹変するのだ。性交時に。
 著者の作品にはしばしばエロい描写があって、子供のころはかなりドキドキそわそわしながら読んだものだ。で、この作品のエロ描写はというと、正直なところエロいっていうより女がアグレッシブすぎて怖い。女の振舞いは暴力的で、鬼気迫っていて、あーこりゃ憑いとるわって感じがすごくする。まさに「食う」って言葉がぴったりな感じ。暗闇の中、汗ばんだ女の体が蛇みたいに蠢めくさまを、著者はノリノリで描写している。また女の「吐息」についての迫真の表現も、その気味の悪いほどのねちっこさフェチっぽさで、超常的な雰囲気作りに一役買っている。

 この作品は「古き佳き日本の女性の美しさ」をホラーやオカルト、SFなどの様々な手法を用いて描く「女シリーズ」の一編。シリーズとはいっても個々の作品は、どれも異なる趣向でそれぞれ独立した作品になっている。解説には「基調ムードは、ほろびゆくものへの挽歌のしらべだろう」とあって、これは本書に収録された5編に対しての評だが、それ以外の作品を含めたシリーズ全体からも、同様のノスタルジックで物寂しい印象を受ける。

 劇中では芸者をあげてのドンチャン騒ぎがあったり、関西弁の賑やかな応酬が続いたりするのだけれど、なんとなく空騒ぎぽくって、やはりそこはかとなく寂しい。寒々とした琵琶湖の情景のせいなのか、それとも初老の登場人物が抱く感傷に共感してそう感じるのかは分からない。ただ全編にそんな寂漠とした空気が漂っているからこそ、快楽を一心に貪る女の生命感は異様なほど鮮やかで、強く印象に残る。


 ※日本民話の会 学校の怪談編集委員会『学校の怪談大事典』ポプラ社 1996 p.55
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