『今昔物語集 巻第二十七 本朝 付霊鬼』より「第六」埋められた器物の謎について

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serpent sea
『今昔物語集 巻第二十七 本朝 付霊鬼 東三條銅精成人形被掘出語第六』(山田孝雄, 山田忠雄, 山田秀雄, 山田俊雄校注『日本古典文学大系〈25〉今昔物語集 四』岩波書店 1962 所収)

 小学生のころ「神さん」と会ったことがある。ある日学校から帰ると、玉砂利を敷いた庭のまんなかに、でっかい穴があいている。なんだこれと思いながら勝手口から母屋に入ると、当時はまだ存命していた祖母が、ほっぺたにホクロのある知らないおばさんとお茶を飲んでいた。
 そのおばさんが「神さん」だった。自分には全然心当たりがなかったのだけれど、当時実家では少々気味の悪い出来事が頻発しており、そこで祖母の古くからの知人の「神さん」に、家を見てもらうことにしたのだそうだ。

「神さん」はやって来るなり家の周囲をぐるっとひとまわりして、敷地内の二カ所を掘るようにといった。それが裏の物置の床下と、さっき穴のあった庭のどまんなかだったのだ。その日休みをとっていた父親が、腰のあたりまで掘ったところで、庭からは壷が出た。それまでは半信半疑だった父親も、出たからには仕方ないってことで、次に物置の床板を剥がしてそこも掘り返した。するとまた同じくらいの深さから壷が出た。

 二つの壷は見た目もサイズも漬け物にぴったりな常滑焼だった。なかには土がいっぱいに詰まっていて、ビニールシートの上でひっくり返してトントンと揺さぶると、固まっていた土がまずバラバラ落ちて、それからヘドロのような黒い泥が大量に流れ出た。なにかが腐ったような、すごい悪臭がしたそうだ。なぜそんなものが埋まっていたのか、家族にはまったく心当たりがなかった。その泥と土はゴミ袋に入れて、壷と一緒に「神さん」が持ち帰ったらしい。

 人をぞっとさせるような怖い話でないのが残念だけど、これは身近に起きたちょっと不思議な出来事の一つだ。実は自分が見たのはすべてが終わったあとで、残すは穴を埋めるだけってところだったから、この黒い泥は見ていないし臭いも嗅いでない。ほとんどは祖母と父親から聞いたものだ。当時は不思議なパワーのある人がいるもんだなーって程度の認識だった。
 推理小説なら「神さん」もしくは家族の誰かが、事前にこっそり壷を埋めてたってことになりそうだけど、状況を知っているだけにそれは現実的ではないように思う。またこの「神さん」は普通の主婦で、霊視とか占いとか、そういったことを生業にしているわけではなかったようだ。後日祖母が菓子折りを持って挨拶にいったのを覚えているが、見料のようなものを支払ったかどうかはわからない。

 で、なんでこんな話を書いたのかっていうと、これと似た感じの話が『今昔物語集』のなかに載っていて、その枕のつもりで書きはじめたら長くなってしまったのだった……↓

『東の三條の銅の精、人の形となりて掘り出されたる語 第六』

 今は昔、東の三條殿に式部卿の宮という方が住んでおいでになったときの話。

 南の山に身長三尺(※1)ほどの太った五位(※2)が、時々現われて歩きまわる。それを御子(式部卿の宮)がご覧になられて、薄気味悪く思われていたのだが、なおも五位の歩くことがたび重なったため、名高い陰陽師を召されて、その祟りについて尋ねられた。
「これはもののけ(※3)でございます。ただし人に害を成すようなものではございません」と陰陽師が占い申したので、御子は「その霊はどこにいるのだ。またなんの精なのだ」と重ねて問われた。すると陰陽師は「それは胴の器の精霊でございます。宮の辰巳(※4)のすみの土のなかにあります」と占い申した。

 そこでその言葉に従い、宮の辰巳の方角の地面を限定して再び占わせ、占いに出たところを二、三尺ばかり掘らせてみたが、なにも出ない。陰陽師が「もう少し掘ってみてください。ここであることに間違いはございません」と申すので、さらに五、六寸(※5)ばかり掘らせてみると、五斗(※6)ばかり入るくらいの胴の提(※7)が掘り出されたのだった。
 それ以来、五位の歩くことは絶えてなくなったという。

 どうやらその銅の提が、人になって歩いていたことに間違いはないようだ。考えてみればなんとなく可哀想な気がする(※8)。このように器物の精は人の姿となって現われることがあり、そのことは人々によく知られていると語り伝えられている。


 ※1. 約90センチ。ちっこい。
 ※2. 律令の官位で、かなり偉い。深緋という濃い緋色(赤色)の装束を身に着けていた。
 ※3. この「もののけ」は続いて出てくる「霊」「精」と同義。ごちゃ混ぜに用いられている。
 ※4.「たつみ」南東の方角。
 ※5. 15〜18センチ。
 ※6. 現在1斗は約18リットル。五斗は約90リットル。
 ※7.「ひさげ」ヤカンに似た形状の酒や水を注ぐための器。
 ※8. 原文では「糸惜シキ事也」(イトホシキコトナリ)。

 地中深く埋まり、人の姿で現われた妖しいものに対して、「糸惜シキ事也」(イトホシキコトナリ)という著者の感性が素晴らしい。また「提」のまるっこい形状と赤金(アカガネ)と呼ばれていた銅の材質が、赤い装束を着て太ってるというこの「五位」のビジュアルに、しっかりと反映されているところもおもしろい。器の擬人化だ。冒頭のうちの実家の話でも、事前に褐色肌の双子の女の子なんかが目撃されていればよかったのだけれど、そんなことはまったくなかった。残念ながら。

 ※上記『今昔物語集』の意訳文は、主に頭注を参考にしてまとめましたが、解釈などに間違いのある可能性が大いにあります。またごちゃごちゃと書いてある文章には、定説ではない独断や思い込みが多く含まれていて、資料的な価値はありません。あくまでも感想文ということでご了承ください。
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serpent sea
Posted byserpent sea

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serpent sea  
Re: No title

>>ウォーリックさん

こんにちは!

蹴って「へたへたくなくなにして」食べてしまうというと、『宇治拾遺物語』の12巻の「陽成院妖物の事」ではないでしょうか。浦島太郎の弟が出てくる話で、短いながらとてもインパクトがあります。↓
http://www.google.co.jp/search?num=50&q=%E5%AE%87%E6%B2%BB%E6%8B%BE%E9%81%BA%E7%89%A9%E8%AA%9E%20%E9%99%BD%E6%88%90%E9%99%A2
何でもかんでも妖怪の仕業ってことにしがちな時代だったとはいえ、当時のエンカンウト率の高さはとんでもないですよね。まじでポケモン以上です。

それと日野日出志と言えば、このあたりの時代が大好きなようで↓、この本では今昔の世界観で、オリジナル説話を展開しています。以前今昔物語の鬼の話が映画化(「アギ 鬼神の怒り」)されたときも美術を担当してたし、ほんとに好きなんでしょうね。画風もぴったりだと思います。
http://www.amazon.co.jp/dp/4106030241/

コメントありがとうございました!

2014/02/15 (Sat) 22:10 | EDIT | REPLY |   
ウォーリック  
No title

こんにちは!

確か今昔物語だったと思うのですが、人気のない古い屋敷の
雨戸をあけてのぞき見をすると、物の怪が出てきて男を足で蹴り
あげると「へたへたくなくなにして」食べてしまった、みたい
な逸話ありませんでしたっけ?

何か日野日出志のような世界でおどろおどろしかった
思い出があるのですが...

https://www.google.co.jp/search?q=%E6%97%A5%E9%87%8E%E6%97%A5%E5%87%BA%E5%BF%97&source=lnms&tbm=isch&sa=X&ei=zpj-UsizJM3TkAX5uIGAAg&ved=0CAcQ_AUoAQ&biw=1711&bih=896

2014/02/15 (Sat) 07:31 | EDIT | REPLY |   

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