花輪和一『コロポックル [完全版]』

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 花輪和一『コロポックル[完全版] 』講談社 2004 KCデラックス 1894

 著者には珍しく現代を舞台とした作品。収録されているのは「地底探険の旅」14話、その続編っぽい話「北土星」3話、コロポックルの日常(?)を描いた「コロポックルくん」5話、そしてエッセイ風の短編「原始の峠の美しいモノ」1話。美しいセンターカラー、折り込みのカラー口絵も付いている。

「地底探険の旅」は花輪顔の少女(推定8歳)とコロポックルの二人が、北海道の地下の異世界で繰り広げる冒険譚。セミの幼虫や奇怪な生物に遭遇しながら、行き当たりばったりに地下世界を巡る二人が、最終的に地下と小樽を結ぶ「C62型蒸気機関車 北土星」を復活させる。
 北海道の美しさと、著者の蒸気機関車に対する熱烈な愛情をメルヘンの形に昇華した作品で、精密に描かれた植物や昆虫、動物のようにいきいきと逞しい少女など、舞台を現代に移しても著者の作風は揺るぎない。著者の絵のファンとしては、より緻密で繊細な絵を知っているから、ついそういうのを期待してしまうけれど、肩の力の抜けた感じが伝わってくる本作のようなタッチもまた好ましい。

 圧巻は読者が引いてしまうんじゃないかってほどの、無邪気な機関車愛。これがすごい。
 少女(推定8歳)が駅弁を頬張りながら「超大型SL、C62特有のジェット機のようなドラフト音が渦を巻いている」(p.25)「うまい! C62のものすごいパワーがこもっている」「心臓のリズムに合わせるかのように響く、心地よいレール音を聞きながらの駅弁は最高だ」「時々空気を裂くような、するどいドレイン弁の音もする」「ああ……汽車ならではの旅だなぁ」(p.26)なんて思いにふけってたりする。
 どんな幼女だよってのはさて置き、これらの場面には「ウバババグバババズバババ」「ブォォォォ」「トトーン、ウツツーン、ウタターン」という機関車の発する多彩な擬音の数々が、こと細かく描き込まれて雰囲気を盛り上げている。
 こうした機関車に関わるあらゆる場面で、著者は自らのSL体験の完全再現以上の再現に注力していて、渦を巻くドラフト音や機関車を先導する不動明王、寄り添うように列車と一体化する倶利伽羅龍はすべて著者が見聞きして、感じたものなのだろう。あーこんな風に見えたんだろうなぁという力強い説得力が感じられる。

「原始の峠の美しいモノ」では、そんな著者の機関車愛がより端的に表現されている。タイトルの「原始の峠」は北海道の函館本線「稲穂峠」、「美しいモノ」とはもちろん驀進する蒸気機関車のことだ。SLを見に峠を訪れた著者の実体験をそのまま作品化したと思しき短編で、全編に異様な緊張感がみなぎっている。とくに素晴らしいのが、クマザサの茂みのなかで機関車を待つ著者の感覚が、どんどん研ぎ澄まされていく神がかった表現。耳の神経が異常にたかぶり、空気の動き、木々をわたる風の音、「無」の音すら聞こえはじめ、周囲には「精霊」が集まってくるという。その様子をすべて「絵」にしているのだからすごい。そして驀進する機関車に著者は叫ぶ。

「ああっ! 美しい美しい、こんな美しいモノがこの世にあっていいのか!」(p.167)

 著者によると蒸気機関車は水と火のものすごいパワーによって、あたりを祓いながら進むらしい。この作品でも機関車を先導するように不動明王が描かれている。よく分からないけど、なんだかすごくしっくりとくる設定だ。読み終わったあと、機関車の素晴らしさに感銘を受けている自分にハッとする一冊。



『コロポックル [完全版]』
 講談社 2004 KCデラックス 1894
 著者:花輪和一

 収録作品
 『地底探険の旅』
 『北土星』
 『コロポックルくん』
 『原始の峠の美しいモノ』

 ISBN-13:978-4-0633-4894-1
 ISBN-10:4-0633-4894-6
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Posted byserpent sea

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