加藤一『「超」怖い話 午』

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 加藤一編著, 久田樹生, 渡辺正和, 深澤夜共著『「超」怖い話 午』竹書房 2014 竹書房文庫

 最近アニマックスで『フルーツバスケット』がはじまったので、昼のうちに録画しておいたのを寝る前に見て精神を浄化している。毎日これをやってれば、いずれは立派な人間になれるんじゃないかとわりとまじで思ってるんだけど、眠りにつくまでのあいだに呪いの本とかロマン文庫とか読んでしまうから全然ダメだ。

 この日曜日、そんなアニメにつられて原作コミックを一気に読み返したそのあとに、読みはじめたのが買ってきたばかりのこの本だった。「Θ」「Σ」「Ω」のギリシア文字のシリーズが終了して、新シリーズ一冊め。タイトルは『「超」怖い話 午』。「午」は午年のウマで、このシリーズは「十二支」でいくらしい。全12冊ってことなのかな。で、お察しのとおり、フルバとは十二支繋がりってことで……。

「聞くと死ぬ話」聞くと死ぬ系の怪談を勧んで聞いた体験者が、ドアスコープ越しに怪異を目撃する。前に感想を書いた山岸凉子の『あやかしの館』(←前の記事へのリンクです)にも同様のシチュがあったけど、怪異とか関係なしにもともと怖々覗くために設けられるドアスコープの、怪談との親和性の高さは言わずもがなで、上手く用いられたときの効果は大きい。この話で体験者が見たのは、ドア一枚隔てた向こう側で異様な行動をとる黒い女。わけの分からなさが怖い。

「嗤い顔」子供のころ激しい虐待を受けていた体験者が、自らのもとに現れた奇怪な生き物に母とその内縁の男の死を願う。怖ろしいのはおさな心に、その生き物「水滴人間」といたほうがマシだと思わせるような過酷な環境。この一連の出来事が超常的なものであっても、またそれとは違って、体験者の心の問題に起因するものであったとしても、物悲しく怖ろしい。詳細な描写が特徴的なエピソードで、全編に殺伐とした雰囲気が漂っている。

「一両編成」体験者が高校生だったころ、乗客が自分一人になった一両編成の電車に起こったトラブル。鉄道にまつわる怪談は数多いが、体験者の女性と車掌のとった驚きのリアクションのおかげで、類例のない希有なエピソードになっている。怪異もシンプルながら唖然とするようなスピード感がよかった。
 この話の車掌をはじめ、警察官や消防士など、公的な業務に従事している人が登場すると、なんとなく「オフィシャル怪談」って感じになるのが楽しい。また体験者の話を補完するように、その友人の体験談が挿入されているのも気が利いている。

「迎え盆」少年時代、お盆の時期にお寺で出会った少年は、毎年お盆になるとそこにいて、しかもまったく成長することがない。体験者はそんな少年を「わらし」のような存在かと考えていたのだが……。昭和三十年代の出来事だという。暑くて、蟬の声がうるさくて、なぜかなんとなく寂しい、そんな田舎の夏休み情緒たっぷりのエピソード。少しほろ苦い不思議系の話なのかなと思いきや、ラストの祖母のリアクションでにわかに怪談色が濃くなる。

「後の業」おそらく呪い……というか、ある家族にまつわる因縁と特殊な習わしについての話だと思うのだけれど、簡単にはまとめられないような奇怪な話。岩が転がしてあるだけの裏庭の墓場、瘡蓋で顔面を覆われた女、自分の葬式……。体験者は子供のころ、今とは異なる名前で呼ばれていたという。こうした気持ち悪いモチーフが、関連のあるようなないような感じで次々に現われる。体験者自身にも、もちろん読者にも全貌は知らされない。ただオチから判断するに、体験者は「どういったことがあのとき行われたのか」現在はもう知っているか、少なくとも近々知ることになっているようだ。タイトルが意味深。

「断食」ラーメン屋で働く体験者の同僚、留学生のシンさんの身の上に起こった出来事。ぜんぜん食事をとらなくなったシンさんが、とうとう無断欠勤をするようになった。その様子を見にいくことになったのが、体験者とその後輩。餓死という嫌な可能性も考えられたが、二人が訪れたシンさんの部屋は雑然としてはいるものの、誰もいないように見えた。ところがふと目線をあげると、それまで死角になっていた天井の片隅に、痩せこけたシンさんが張り付いていたのだった。
 ……ここまで書いてしまうとネタばれっぽく思えるかもしれないけれど、これはオチじゃなくてまだ途中。この先に本当にぞっとするようなオチがある。

 以上目についたものをあげてみたのだけれど、まだ2回しか読んでないので、あとになってこんなスゴイのがあったって話が出てくるかもしれない。収録されたエピソードは全部で31編。上記のほかにも海にまつわる話がいくつか載っていて、どれも印象的だった。全体に長めの、ちょっと変った話が選ばれてる感じで、新たなシリーズに対する意気込みを随所に感じることができた。
 ただ肩に力が入りすぎたのかどうなのか、首を傾げたくなるような微妙な文章が何カ所かにあった。怖けりゃいいじゃんって気もしないでもないが、短い話だからこそ細部の精度にも期待してしまう。それから以前にも書いたけど改行について。縦書きに組まれた本で、ポエムのようにすべての句点ごとに改行してしまうと、改行の効果がなくなってしまうように思う。もしかすると横書きで原稿を書いているからかもしれないし、単にページ数の問題かもしれないが一考して欲しいところ。

 といった感じで色々書いたけど、「十二支」シリーズのメンバーとして選ばれた四人の著者たちが、この先どのようなパフォーマンスを見せてくれるのか、続刊が非常に楽しみだ。

 ……ところで最初の話に戻るけど、実はフルバのDVDはしっかりBOXで買って持っているのだ。にもかかわらず、なぜ毎日コツコツ録画しているのか、われながらさっぱりわからない。同様の現象は映画では「プレデター」や「エイリアン」の各シリーズなどでも頻繁に生じる。頻繁すぎて最近ではこの現象に命名の必要を感じるほどだ。今日は第21話、未の登場回です。



『「超」怖い話 午』
 竹書房 2014 竹書房文庫
 編著:加藤一
 共著:久田樹生/渡辺正和/深澤夜

 ISBN-13:978-4-8124-9849-X
 ISBN-10:4-8124-9849-1
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Posted byserpent sea

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