江戸川乱歩『踊る一寸法師』

0 Comments
serpent sea
 江戸川乱歩『踊る一寸法師』(『江戸川乱歩推理文庫〈5〉陰獣』講談社 1987 所収)

 曲芸団に所属する道化師の「一寸法師」こと、小人の「緑さん」が、団員にさんざんいたぶられたあげく、残酷な復讐を遂げる。殺害されるのは緑さんにやたらあたりのキツい、美人玉乗りの「お花」。彼女のキャラはつぎの台詞から窺えると思う。

ね、豆ちゃんは、あたいに惚れてるんだね。だから、あたいの言いつけなら、なんだって聞くだろ(p.18)


 物語の舞台は興行後のテント、飲み会の席の一幕である。「豆ちゃん」とは緑さんの数ある蔑称の一つらしい。すっかり出来上がった軽業師たちは、手ひどい嘲笑と暴力で緑さんを弄んでいる。人権意識とか諸々の配慮とかお構いなしな差別的な描写が続く。薄暗いランプの下の猥雑で残酷な宴会を、著者はイキイキと描写している。
 緑さんはなにをされてもにやにや笑い、へつらい、十八娘のような不気味な嬌羞を見せるばかりで、その心情は窺いしれない。そのあたりは全然描写されない。しかし単に残酷な仕打ちと耐える緑さんって感じの場面が続くかというと、そうでもなくて、谷崎潤一郎の作品を彷彿とさせるような淫靡な雰囲気が濃厚に漂っている。

踊りつかれた玉乗り女の大きなお尻が、彼の目の前にただよってきた。故意か偶然か、彼女は一寸法師の顔の上へ尻餅をついてしまった。/ 仰向きにおしつぶされた緑さんは、苦しそうなうめき声を立てて、お花のお尻の下でもがいた。酔っぱらったお花は、緑さんの顔の上で馬乗りのまねをした。三味線の調子に合わせて、「ハイ、ハイ」とかけ声をしながら、平手でピシャピシャと緑さんの頬をたたいた(p.15)


 この仕打ちにも緑さんは、にやにやと愚かな笑いを浮かべて「ひでえなあ」と、ひとこと。……あれ、緑さん喜んでね? なんて思ってしまう。こんな感じで微妙な印象を抱かせるシーンは何ヶ所もあって、それだけにクライマックスの緑さんの大爆発はかなりショッキングだった。
 なぜ緑さんはお花を手にかけたのだろう。最初に「残酷な復讐」と書いた通り、ストーリー的には概ねそんな感じなんだけれど、考えてみれば、緑さんがお花にべた惚れだったとして、その思いを遂げるためには、彼にはこれ以外の結末は残されてなかったのかもしれない。ラストシーン、手にした「丸いもの」に口づけをしながら、月を背景に踊る一寸法師のシルエットは、見てくれこそ随分違うけれどワイルドの「サロメ」のようだ。

 残酷なシーンも多いけれど、それに負けず劣らず美しく、レトロな雰囲気満点の好編。


  人間椅子『踊る一寸法師 [CD]』インディペンデントレーベル 1995


関連記事
serpent sea
Posted byserpent sea

Comments 0

There are no comments yet.

Leave a reply