つのだじろう『霊劇画 真夜中のラヴ・レター〈4〉』

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 つのだじろう『霊劇画 真夜中のラヴ・レター〈4〉』主婦と生活社 1983 SJコミック

 迷走の気配を見せた第3巻に続いて、期待と不安がうなぎのぼりの第4巻。まあ著者のことだから例え迷走したとしてもきっと面白いだろうけど、ネックは霊能者七条絵夢の能力のインフレか。なんて思ってたら、さすが非凡なバランス感覚の持ち主、新たな霊能者(それもぐっと庶民的な)をさらっと登場させることによって、見事に霊能力のインフレ化を阻止、作品を立て直している。結果、この第4巻はシリーズ屈指の好著となった。「第15章」~「第21章」の全7話が収録されている。

 - 各話の霊障と雑感 -

「第15章 体臭のある女性」新レギュラーの霊能者、西塔恵が登場する。相談者は三人の女性。各々が自分に強い体臭があり、その原因が霊障ではないかと気に病んでいる。いかにもコンプレクス商法にはまりそうな感じ人ばっかりだ。予想通り単なる思い込みや霊以外の原因があることがさっさと判明する。
 ところがここまでのスジとはほぼ関係なく、相談者の一人が霊障を受けやすい体質であることが分かる。今まで様々な霊能者から除霊を受けてきたらしい。いよいよ除霊が行われるかと思いきや、「体質」なだけに慣れるしかないよ、という身もフタも無いオチ。

「第16章 霊山の壷」韓国の霊山から産出された大理石製の壷(150万円也)を買った主婦が強い霊障を受ける。壷に関しては某新興宗教団体が行った霊感商法をほぼそのまま描写していて、「壷には高貴な霊がやどっているのです! この壷を持ったものは幸福になること疑いなし!」(p.37)って感じのセールストークからはじまり、因縁霊浄化の必要性を滔々と説かれたりする(「霊感商法」詳しくはwiki等参照)。そんな悪質商法を真っ向から否定するのが、市井の霊能力者というのがなんか皮肉だ。またこの作品が霊感商法の被害者が爆発的に増えて社会問題化する時期に、ほんの少し先行して描かれていることも見逃せない。さすがに目先が利いている。根本敬が同じく壷を買って妙なことになる家庭を漫画化していたけど、あれも同じころの作品だったのかな。

「第17章 六枚の扉」シリーズのなかでも最も興味深いエピソード。相談者の女性は幻視を主とする強烈な霊障を受けていて、精神病院への入院歴がある。これまでにも様々な霊能者から除霊を受けているが、例によって効果はない。霊能者西塔恵によると、デタラメな信仰を続けてきた相談者の家に代々渦巻く信仰の念が、その霊障の原因だという。それに対して「一枚一枚扉を開いて/はがしていくやり方の除霊」(p.99)が行われる。相談者には「六枚の扉」があるらしい。
 相談者の「心の世界」に入った霊能者が、この「六枚の扉」を一枚ずつ開放していくくだりはとても興味深く、扉の中の様子にもそれぞれ工夫が凝らされている。「六枚目の扉」の何もない部屋のなかで、体育座りしてる全裸の相談者が印象的だが、それが因縁やしがらみに閉じこめられた彼女の「本心」であるという。
 最終的には全ての扉が開け放たれ除霊は成功するのだが、この相談者の「心の世界」に入り「六枚の扉」と表現される因縁の層を解消して「本心」を救うという描写は、著者が常日ごろから不信感を公言している精神医学の分野に、すごく接近してるんじゃないだろうか。色々突っ込みたいところなんだけど、その分野に疎過ぎる自分がもどかしい。ただ宗教、信仰、因縁、精神医学など多くの要素を内包しつつも、バランスのとれた好エピソードだと思う。ビジュアルも面白い。

「第18章 結婚と別れの谷間」「たまにはこういう人生相談というか」「霊感占いみたいなのがあると楽でホッとするわね」(p.135)という台詞通りの軽い短編。西塔恵の他、霊能者安倍富貴子が登場。相談者の婚約者の生霊を呼び出して本心を聞く。
 本編はさて置き「こちらからみれば他人の将来をみたり/病気なんか見抜くことは簡単だものね」「子供を何人中絶したか…なんて/いくら隠してても一目でわかっちゃう」(p.135)って感じの、軽いんだか重いんだかよく分からないガールズトークが怖ろしい。

「第19章 水子ふたたび」前話の結末において「中絶」というキーワードが出たところで、「水子」がテーマの作品。相談者は4体の水子霊に憑かれ、身体の各部に不調を来している。相談者には相当悲壮感が漂っているが、水子に関しては除霊を行わず、その供養のあり方を諭して終わる。ストーリーのヤマ場は、西塔恵と安倍富貴子が「子供を何人中絶したか…なんていくら隠してても一目でわかっちゃう」(p.135)ところ。

「第20章 七条絵夢の奇跡」霊能者七条絵夢が久々に登場。著者によれば、彼女の霊格は一段と高まり「最近…現代のイエス・キリストといっていいほどの 信じられない奇跡を起こしたという」(p.165)。その奇跡とは前巻より引き続いての心霊治療である。相談者を蝕む原因不明の難病を、「心霊エネルギーパワー治療」(p.183)という「手かざし」によって完治させる。「この事実は筆者自身は確認しておりません」「七条絵夢の提供してくれた資料によって作画しました」(p.192)とは本編終了後の著者の弁。

「第21章 うりふたつ」著者の地力の確かさを再認識させられる地に足の着いた作品。キャラクター重視の現在の流れとは相反するが、語るべき内容に見事に絵が乗っていると思う。ストーリーはドッペルゲンガー(劇中では「復体」(Double)と呼んでいる)に関するもので、荒んだ主人公がもう一人の自分によって導かれ、人生を見つめ直すというもの。本書において唯一著者が登場しないエピソードである。

 心霊現象に対しては「正真正銘の事実」と断言する著者だが、霊能者に対するスタンスは実はかなり曖昧で、「除霊の効果はなかった」とは書いても「霊能者がインチキだった」とは書かない。劇中「神の世界を論評する力は/わたくしにはありません」(p.120)とも語っているが、霊能者に関しては大いに論評してもらいたいところだ。←この辺が次巻へのフリになっている。

 体臭、霊感商法、精神医学、生霊、水子、奇跡、ドッペルゲンガーなどなど、オカルトの幕の内弁当のような、なんともカオスな本書であるが、著者の実力が充分に発揮された非常に満足度の高い一冊だと思う。

 ※フキダシからの引用は、読みやすいように改行を調整しています。


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