H・P・ラヴクラフト『宇宙からの色』

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 H・P・ラヴクラフト(Howard Phillips Lovecraft)著, 大瀧啓裕訳『宇宙からの色』("The Colour of Space"『ラヴクラフト全集〈4〉』東京創元社 1985 創元推理文庫 所収)

 前にも書いたけど創元推理文庫版の全集のなかでもとくに好きなのが、この作品が収録されている第4巻で、SF色の強い作品を中心にまとめられている。そういえばオムニバス映画『クリープショー』(1982)のなかの一編が、この話をもとにしてたような気がするが、実際にはどうだったんだろう。スティーブン・キングが農夫役をやってた話だけど、しっかり原作だったのかな。

 アーカムの近郊には不気味な荒れ地が広がっている。林や野原が酸に侵された染みのように、むきだしの地表をのぞかせていて、そこにはいかなる動植物も育たない。近隣の住人はその土地を「焼け野」と呼ぶ。かつては農業に適した肥沃な土地だったが、ほんの短い期間を経て現在のような状態に変貌したらしい。すべては隕石の落下とともにはじまったという。
 極めて特殊な性質を持った隕石が、ある農家の井戸のすぐそばで発見された。科学者によって様々な調査が行われたが隕石を構成する物質の正体さえつかめない。そうこうするうちに、現在「焼け野」と呼ばれるようになった地域全体に奇妙な現象が発生した。最初植物からはじまった異常は、そこに棲息していた動物へと広がり、やがて奇形化した姿が目撃されるようになる。何らかの汚染が原因ではないかと疑われるなか、隕石の落下した農家の住人が体調の異変を訴えはじめた……。

 この作品には明確な「主人公」が設定されていない。一応ダム建設に携わる調査員の、地元住民への聞き取り調査という形をとってはいるが、隕石の状態と、刻々と変化、悪化していく周辺環境の状況の、報告書のような描写で作品が構成されている。「焼け野」そのものが主人公といった感じだ。で、その描写というのが、今回著者が自信満々なだけあって本当に素晴らしい。ともすれば大げさになりがちな表現が、調査員の科学的な目を設定することで、実に上手くコントロールされている。環境がじわじわと汚染されていく怖ろしさもさることながら、ラストの物体Xの昇天シーンはすさまじく、代表作『ダンウィッチの怪』のラストシーンに勝るとも劣らないほどの迫力だった。
 巻末の「作品解題」で「紛れもない傑作」(p.321)と大絶賛されているこの作品は、ラヴクラフト自身エリザベス・トルドリッジ宛の書簡のなかで、この作品以外に「全体としてわたしを満足させる作品はありません」(p.326)と記している。


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