福島正実『マタンゴ』とW・H・ホジスン『夜の声』

0 Comments
serpent sea
 

 福島正実『マタンゴ』(東雅夫編『怪獣文学大全』河出書房新社 1998 河出文庫 所収 )
 W・H・ホジスン(William Hope Hodgson)著, 井辻朱美訳『夜の声』("The Voice in the Night"『夜の声』東京創元社 1985 創元推理文庫 所収)

 W・H・ホジスンの『夜の声』は、船員が海上で遭遇した遭難者らしいボートの男から、身の上話を聞くという構成の短編。暗い夜の海のいつまでも晴れない霧や、姿を見せないボートの男の得体の知れなさ、そのいちいちのリアクション、真偽不明の奇怪な身の上話などがぎゅっと凝縮されて、不気味で幻想的な雰囲気を醸し出している。

 この『夜の声』を東宝映画『マタンゴ』(1963)の原作として翻案したものが福島正実著『マタンゴ』。雑誌『笑の泉』昭和38年(1968年)8月号に、映画の公開に合わせて発表されている。

 遭難の顛末が海上での会話で説明される『夜の声』と比べて、『マタンゴ』では遭難者がキノコの群生する島に漂着して以降の出来事に主眼が置かれている。遭難者は若い六人の男女となり、各人の性格付けもよりしっかりとなされている。『夜の声』の遭難者が恋人と二人で生きようと足掻いた末に、静かに死を(キノコ化を)受け入れようとしているのに対して、『マタンゴ』の遭難者たちは食料や女を奪い合い殺し合うというドロドロの人間ドラマを展開する。そして『マタンゴ』はエロい↓

暁子が、口いっぱいに白いキノコを頬ばって、口の端からよだれの糸をひき、目をほそめ、身もだえしていた。けもののうめきと聞いたのは、暁子の歓喜の叫びだった(東雅夫編『怪獣文学大全』河出書房新社 1998 河出文庫 p.171)


 映画の原作として求められたものなのか、こういう傾向の作品が流行っていたからなのかは分からないけど、やっぱりエロい。翻案に際して『夜の声』を「これってエロくね?」と捉え、それをきっちり押さえて作品化した著者の慧眼と力量には並外れたものがあると思う。その結果『夜の声』の卓抜した着想をベースにしながらも、肉付けによって大きく姿を変え、独自の妖しい魅力を獲得するに至っている。「幻想的」な『夜の声』に対して、「官能的」な『マタンゴ』って感じ。

『マタンゴ』は知名度のわりに短編集などに収録される機会が少ない作品で、手元の本(下記)はアマゾンで調べたところ2冊とも品切れ「出品者から~」となっていた。BOOKOFFなどでたまに見かけることもあるが、『マタンゴ』以外のどの収録作も読み応えのある良い本なので、復刊が望まれる。

 香山滋, 福島正実著 『怪獣総進撃 怪獣小説全集Ⅰ』出版芸術社 1993 ※『マタンゴ』関連では本編の他に、鮮明なモノクロの映画スチル写真多数と、デザイン画、カラー口絵には当時の映画ポスターが収録されている。

 東雅夫編『怪獣文学大全』河出書房新社 1998 河出文庫 ※『マタンゴ』関連では本編の他に、橋本治著『マタンゴを喰ったな』『更にマタンゴを喰ったな』、大槻ケンヂ著『マタンゴ』が収録されている。

 ※関連記事です↓W・H・ホジスン『夜の声』
 http://serpentsea.blog.fc2.com/blog-entry-11.html


 マタンゴ [DVD]』東宝 2003


関連記事
serpent sea
Posted byserpent sea

Comments 0

There are no comments yet.

Leave a reply