古賀新一『女とかげ』

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 古賀新一『女とかげ』ひばり書房 1985 ヒット・コミックス 43 オカルト・シリーズ
 古賀新一『恐怖の女とかげ』ひばり書房 1987 ヒット・コミックス 144 オカルト・シリーズ

 怪奇漫画の殿堂、ひばり書房の一冊。表題作の『女とかげ』を含む4編が収録されている。のちに書名、表題作が『恐怖の女とかげ』に変更されているが、カバーのデザインが微妙に変わっただけで、中身、カバーイラストには手を加えられていない。

 まず最初にカバーイラストについて。著者独特の可愛らしい顔立ちの女の子に、白装束の女と老婆が、無数のとかげを浴びせかけている図だ。女の子が身に着けているのは、フリルのついた純白のパンツ一枚きり。その裸の上半身には、とかげがうじゃうじゃと這い回っている。意外にふくよかな乳房や肌色の乳首が、とかげの群れの隙間にかいま見える。……という感じの素晴らしいイラストで、エログロさにかけては屈指の逸品だ。

『女とかげ』(『恐怖の女とかげ』)
 彼氏もできてリア充ライフを満喫している「麻也」だったが、最近気がかりなことがあった。それは上品で才能に溢れる両親に自分が全く似ていないのではないか、というものだった。きっかけは自分の顔に黒い痣が浮かんで見える一枚の写真。
 そんな矢先、自動車事故を起こした麻也は、入院先で一人の女と出会う。雨のなかでとかげを採る「みすぼらしいおばさん」。しかしその表情がどことなく写真の自分に似ているように思われてならない。いつのまにか気を失った麻也は、おばさんの家に運び込まれていた。
 おばさんには「麻也」という名の赤ん坊がいるらしい。「いまお乳をあげますよ」(p.40)と赤ん坊を抱きあげるおばさん。すると赤ん坊の腕がぽろっと落ちる。それは赤ん坊サイズの人形だったのだ。突然、乳房が張って痛いと苦しみだしたおばさんは、麻也を部屋から追い出した。そして水槽から取り出したとかげの群れに、自分の乳を吸わせはじめたのだった……。

 ここまでが全編の半分くらい。作品のクライマックスだ。とにかくこのとかげに乳を吸わせるシーン、発想のおぞましさもさることながら、p.48-p.49の巧みな表現には驚かされてしまう。戸の隙間から室内を覗き込む麻也と、室内でおっぱいにとかげを這わせるおばさんを、緊張感たっぷりのカットバックで見せる。白と黒のコントラストのきつい画面や、極力台詞を排した演出が実にかっこよく、この2ページだけでも、あー買ってよかったと思わせるすごいシーンだ。
 ストーリーは謎が謎を呼ぶ展開だが、いつも通りの行き当たりばったり感は健在で、その謎も最後の1ページでササッと解決してしまう。とはいえそれは「とかげに授乳」のインパクトでぼーっとなった頭には、瑕疵にも感じられないほどの些細なことで、なんかすごいの読んだなあ……という印象が残る。著者の持ち味が存分に発揮された作品。

『へび先生』
「仙波沼には主(大蛇)がいてその主が女にばけては人里に害をあたえるという」(p.87)。単なる伝説かと思いきや、「ゆかり」の学校にはその大蛇のミイラが保管されている。理科担当の先生によるとそれは数百年も昔のもので、日本に一つしかない貴重な資料らしい。ところでその先生のことをゆかりは気に入らない。ゆかりのことを全然信用してくれないからだ。そこで先生を困らせてやろうと、大切なミイラを壊してしまう。するとその直後から、様々な怪異がゆかりを襲いはじめた。

 一点豪華主義の『女とかげ』に対して、本作は全編にわたって怪奇現象のオンパレードだ。いい感じに小憎らしいゆかりを、蛇関連の怪異が水陸、家庭内を問わずに矢継ぎ早に襲う。メインは体中をウロコに覆われた先生(四肢のみならず首まで伸びる)とのチェイスだが、蛇関連の嫌なこと怖いことをとことん突き詰めて絞り出したに違いない、怪異のバリエーションが素晴らしい。個人的にはへび先生の口から赤ちゃん蛇が「ゲッ」と飛び出して、ゆかりの顔に「ペタ!」とはりつくシーンがツボ。「腸」の標本を頭からかぶったりする著者らしいシーンもある。ハードコアな作品。

 本書にはこのほかに『ぬりこめられた死体』『のろいの笑い面』の2作品が収録されている。『ぬりこめられた死体』はオカルト・サスペンスといった感じの作品で、完成度の高さでは収録作のなかでも随一。サスペンス調の手堅いストーリー展開とモダンな雰囲気のなか、唐突に「つ……つけものの石が……キャー~っ!!」(p.176)なんてシーンが挿入される。
『のろいの笑い面』はごく短い民話調の作品。グロテスクさは皆無だが、そこはかとない気味の悪さと、素朴な味わいが印象に残った。これ誰? って感じの赤い網タイツの女の子が表紙のひばりコミックス版(白枠)には、この『のろいの笑い面』が収録されてないので注意が必要です(黒枠は持ってないので不明)。

 ひばり書房から刊行された著者の作品のなかでもとくに好きな一冊。

 ※フキダシからの引用は、改行を調整しています。


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Posted byserpent sea

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