加藤一『恐怖箱 怪泊』

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 加藤一編著, 深澤夜, つくね乱蔵, ねこや堂, 戸神重明, 高田公太, 神沼三平太, 三雲央, 鳥飼誠, 渡部正和, 久田樹生, 鈴堂雲雀, 雨宮淳司共著『恐怖箱 怪泊』竹書房 2013 竹書房文庫

 子供のころ隣町で藁人形が見つかったことがある。週刊誌とかで取り上げられたらしく、ちょっとした騒ぎになった。現場は人家から離れた吹きさらしの堤防の上で、雑木が適当に生えてるばかりで街灯も何もない寂しい場所だった。さっそく数人の友達と見学に向かったのだけれど、藁人形はすでに跡形もなくて、ただ細い木の幹には何本かの釘がそのままになっていた。今考えてみるとあれが藁人形の釘だったのかどうかは分からない。それでもあの力任せに、ぐちゃぐちゃに打ち込まれた釘には、嫌な説得力があった。強烈な悪意が伝わってくるような、そんな気がしたのだった。

 ……という感じで、本書には↑こんな思い出を喚起させる気味の悪い藁人形の話をはじめ、全31話が載っている。こういった怪談を読むことって、ぽやーっとした暮らしのそのすぐそばに口を開けている、ブラックホールみたいな悪意の存在を再確認するような行動だよなぁ……などと思いつつ、今回とくに気になったのは以下の7話。全体に水準の高い読み応えのある一冊だと思う。

「遺物」旅館に併設された郷土資料館に子どもの幽霊が出る。あまり怖くない、大人しい幽霊だ。この話のキモはそれにどう対処したのかというところで、幽霊そのものの怖ろしさではない。体験者はあっけらかんとその経緯を話しているようだが、その微妙にズレた感覚がなんともいえない不快感を呼ぶ。

「幸せ人形」体験者とともに山歩きをしていたその妻が山中で人形を拾う。それ以来、妻はその人形を肌身離さず持ち歩いて、幸せそうに過ごしている。ただそれを決して見せようとはしない。地雷のように仕掛けられた悪意の塊に蝕まれて、急激に狂気へと突っ込んでいく妻の様子が簡潔に描かれている。夫妻の子どもに関しては触れられてないが、妻の「願い事」とはなんだったのだろうか。

「山の一軒家」山中で道に迷った体験者が、ようやく一軒家にたどりついた。窓から灯りが漏れている。助けを求めて声をかけたが返事はない。よく見ると家の引き戸には外側から鍵が掛けられ、窓には鉄格子が嵌っている。窓から屋内を覗いてみると、襖を開けて女が現れた。体験者の目の前で、女は異様な行動をとりはじめる。
 山中にこつ然と現れた家屋の古色蒼然とした雰囲気や、そこで暮らす女のただならぬ様子が情感たっぷりに描かれている。映像で見てみたい一編。

「平手打ち」舞台はフィリピンのホテル。そこにワンピース姿の女の幽霊が出る。これも悪意の感じられない幽霊で、あまり怖くはない。ただ幽霊の洋服の下が確認できるという点で、とても珍しいエピソードだ。おもしろ系。

「ぽっちゃりホテル」タイトルからは想像できないような、シャレにならない事態が発生している。親戚と泊まったホテルで、体験者は従弟と一緒に見覚えのないフロアに迷い込んでしまう。赤かったはずのカーペットが真っ黒だったという時点で、嫌な予感しかしない。矢継ぎ早にわけの分からない出来事が生じていて、短いながら気味の悪いエピソードだった。……この夜以前の従弟の写真やビデオはなかったのかな?

「パーキングエリア」車中泊をしていた体験者が、真夜中の公園で怪異と遭遇した。一見人に似てはいるが、見れば見るほど異様な姿をしたそれが、公園の真ん中で和式トイレにしゃがむ格好をしたかと思うと……。
 幽霊なのか妖怪なのか、とにかくその怪人の奇怪さと、それに続く気持ち悪い描写が衝撃的。生理的な不快感では収録作のなかでも屈指の一編だ。このほかにも「車中泊」がタイトルの通り車中泊を扱った怪談で、「パーキングエリア」とはまた違った趣向が凝らされていて興味深く読むことができた。

「骨が哭く」一人の青年(体験者)の魂の遍歴って感じのエピソードで、一般的な実話怪談とはやや趣を異にしている。精神的に疲れ果て、それまでの生活をすべて投げ出して放浪生活に入った体験者がいかにして現世に復帰したのか、その過程が描かれている。体験者は行く先々で怪異に遭遇するが、それらすべてが彼の自己との対話のようにも読めるため、シンプルな怪談とはまた別の奥行きが感じられた。

 本書には「旅」や「宿」にまつわる怪談を集められているが、個々のエピソードによって状況は様々だ。散歩してたはずが山で迷ったり、書き置きをして家出をしたり。レジャーに浮かれている体験者もいれば、多くの体験者は生活に疲れて住み慣れた町をあとにしている。何らかの事情で住処を離れた体験者の話といえば、よりしっくりとくるかもしれない。
 最初に書いた通り収録された作品は総じて高水準で、上記の他にも「やっと分かった」「壷」「トッケイの鳴く町で」「関連し得るもの」などなど、印象的なエピソードが多かった。旅の好きな人にはとくにおすすめの本。


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Posted byserpent sea

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