A・ブラックウッド『移植』

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 アルジャナン・ブラックウッド(Algernon Blackwood)著, 紀田順一郎訳『移植』("The Transfer"『ブラックウッド傑作選』東京創元社 1978 創元推理文庫 所収)

 主要登場人物三人がみんな異能者、超能力者という設定で、常人には感知できない異能バトルが展開される。……こんな風に書くとライトノベルのあらすじみたいだけれど、実際にはSFサイキックバトル的な派手さは全く無く、語り手が妙齢の女性ということもあって、情感豊かな美しい描写が印象的な落ち着いた味わいの作品だった。またオカルト大好きな視点から見ると、この作品は19世紀の科学者カール・フォン・ライヘンバッハが発見した「オドの法則」に基づいて書かれているのではないかと思う。

 語り手は「千里眼」的な自らの感覚を自覚する家庭教師の「グールド」。彼女の教え子の弟の「ジェイミー」坊やは、まだ小さくて自覚こそないものの、何らかの強い感応力を持っている様子。先日感想を書いた楳図かずおの『神の左手悪魔の右手』に出てくる「想」にとてもよく似たイメージのキャラだ。その叔父の「フランク」がジェイミーたち一家の館にやって来るところから物語は始まる。フランクには他人の精気や生命力を吸い取って、自らのものにする「人間スポンジ」のような強烈な能力があるらしく、グールドとジェイミー坊やはフランクが登場する前からその存在を感知して脅えている。

 上記の三人の他にもう一つ、重要な超常的要素がある。それは植物がまったく育たないという館の庭園の一画で、劇中では「境の外」「異常な場所」「怖ろしい場所」などと呼ばれている。グールドは「あの庭園の一画にある死に絶えた土地には、何やら失われたものがある」という。この「境の外」と フランク伯父さんによる「オド」の争奪戦、『スキャナーズ』(1981)のラストバトルを彷彿とさせる「静かな戦い」が本作のクライマックスとなっている。
 最初に「落ち着いた味わい」と書いたけれど、正直かなり地味な作品だと思う。それでもこのクライマックスの緊張感や、フランクの能力の発現を「彼の肉体から放たれた小さな黒い馬の群れ」と表現する斬新でかっこいい発想には驚かされる。

 解説には「吸血鬼テーマをひねり、透視(千里眼)をサブテーマにした奇妙な味の小品」とあり、劇中でも「吸血鬼」という言葉が用いられているが、もちろんこの作品の吸血鬼が吸うのは「血液」そのものではなくて、それが表象する「生命力」だ。また三人の能力に関しても、劇中ではそれぞれに異なった表現がなされているが、全てが「オド」の発現であるとも考えられる。
 最終的にはどこまでが実際に起こった出来事なのか、それとジェイミー坊やと「境の外」の関係については、読者の解釈に委ねられている。印象としてはオカルトに深く踏み込んでいて、「オドの法則」云々は置いとくとしても、やけに濃いのを読んだ気分になる作品。


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