スティーヴン・キング『スニーカー』

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 スティーヴン・キング(Stephen Edwin King)著, 吉野美恵子訳『スニーカー』("Sneakers" S・キング他著, 吉野美恵子訳『ナイトヴィジョン スニーカー』早川書房 1990 ハヤカワ文庫 モダンホラー・セレクション 所収)

 スティーヴン・キングのゴースト・ストーリー。トイレに幽霊が出る話。日本にはトイレの怪談が山ほどあるから、外国のはどんなだろうって興味津々で読み始めたら、出てきたのはドラッグの売人の幽霊だった。

 ビルのトイレのドアの下の隙間から覗くスニーカーの爪先。主人公はトイレに行くたびにそれを見かける。幽霊の爪先らしいが、それ以外がどうなっているのかは、最後になるまで分からない。この幽霊はそこに姿をとどめているだけで、能動的に人に働きかけるようなことはしない。しかし主人公が仕事で疲れ、精神的に凹みはじめた途端、彼のなかでその汚れたスニーカーが存在感を増していく。シンプルなストーリーながら、主人公の意識がじわじわと幽霊の存在に捕われていく描写はさすが。

 ダグラス・E・ウィンターによる序文には、著者がこの作品の着想を得た時の話が載っているが、トイレの幽霊が出てくる作品は海外では珍しいらしい。

実のところ、「スニーカー」は、私(ダグラス・E・ウィンター)のアンソロジー『ナイト・フライヤー』のことを話あっていたときにインスピレーションを得たと言えそうだ。幽霊屋敷ものにはオリジナリティのある作品が少ないというようなことを話したところ、キングがこう言ったのだ。「そうかい? だったら、幽霊便所ってのはどうだろう?(p.9)


 裏表紙のあらすじを見て、トイレの幽霊とか古典的だなーとか思っていたものだから、ところ変わればとはいえ、その認識の違いに驚いてしまった。日本では「トイレの幽霊」と聞いて、オリジナリティはまず感じないと思う。
 それじゃアメリカのトイレが「怖い話」と全然無関係かというとそうでもない。強盗、性犯罪、ドラッグなどの犯罪のイメージとは密接に結びついているようで、都市伝説の本などに出てくるのはもっぱらそっち系の話だ。この『スニーカー』もそうした犯罪のイメージを背景にして、日本のトイレの怪談とは全く異なった独特の雰囲気を漂わせている。怖さよりも、物悲しさが印象に残る作品。


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Posted byserpent sea

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