黒沼健『天空人物語』

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 黒沼健『天空人物語』新潮社 1968 異色読物シリーズ

「天空人」とは「宇宙人」の同義語だ。でも言葉から受けるイメージはかなり異なっているように思う。宇宙人と言えばいにしえのタコ型、昨今のグレイタイプ、個人的におすすめの3メートルの宇宙人(フラットウッズ・モンスター)って感じだが、天空人って言うと「そらおと」に出てくるシナプスのマスターや、『幼年期の終り』のオーバーロードっぽいニュアンスが濃くなる。人知の及ばない人類の上位種って感じ。著者はそんな「天空人」の活躍をいつになくノリノリで描いている。

 本書は大きく二つの章に分かれていて、18編の奇譚が収録されている。タイトルにもなっている「天空人物語」の章には「天空人」「ノアの宇宙船」「ナスカの巨大な図形」「謎の神秘な地点」「美しい予言者」「ツングース隕石の真相」「古代科学の一環」「空飛ぶ透明生物」「物質透明化の理論」が、二つ目の「怪奇と謎の記録」の章には「世紀の大実験」「さまよう死人船」「呪いの泥人形」「ジョイタ号の謎」「消えた世界一周機」「肉親を結ぶ霊」「歩きまわる棺」「シーラカンスの巣」「謎の三本足指の巨獣」が収録されている。一連のシリーズと同様のフォーマットだ。

「天空人物語」の章には、紀元前どころか、恐竜の絶滅以前から地球を見守り続け、人類の発祥にも一役買ったという「天空人」をキーワードに、各種の奇説奇譚が集められている。全編に冷戦構造や核戦争の驚異という、当時の状況が色濃く反映されているのが特徴。
 最初に著者がノリノリで〜と書いたが、それは「天空人」「ノアの宇宙船」の2編でとくに顕著だった。著者の創作の割合が大幅に増えていて、これまで感想を書いた本とはかなり異なった印象を受ける。文献に基づく様々なオカルトネタをフィクションで繋ぐという趣向で、金星人と火星人が全面核戦争をしてたりする。エッセイというより、虚実入り乱れた風刺的なSF小説って感じ。

「怪奇と謎の記録」の章に収録されているのは、従来通りの多彩なオカルトエッセイ。興味深いものを少しあげておくと、「世紀の大実験」は有名な「フィラデルフィア・エクスペリメント」について。実験そのものにはさらっと触れるだけで、謎の手紙をめぐる妖しげな後日談をメインにしているのがおもしろい。また「謎の三本足指の巨獣」では、いくつかの謎の生物&足跡の目撃談を交えつつ、1948年にアメリカで見つかった、複数の謎の足跡についての考察をしている。「モア」のようなでっかい鳥が残したものらしいとのこと。アメリカに絶滅種のモア。無理があるけど、燃える。

 上記の各サブタイからも分かるように、今回は科学寄りのエッセイが多い。もちろん普通の科学エッセイとは全然かけ離れていて、科学に寄った分だけトンデモ感が増しているように感じられた。
 あと本書は前に感想を書いた『地下王国物語』と対になるように構想されたらしく、カバーのデザインも『地下王国物語』の白い背景に黒い城塞という装画に対して、本書の装画は黒い星空に浮かぶシルバーの船というもので、鮮やかな対照をなしている。


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