H・P・ラヴクラフト『故アーサー・ジャーミンとその家系に関する事実』

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 H・P・ラヴクラフト(Howard Phillips Lovecraft)著, 大瀧啓裕訳『故アーサー・ジャーミンとその家系に関する事実』("Facts Concerning the Late Arthur Jermyn and His Family"『ラヴクラフト全集〈4〉』東京創元社 1985 創元推理文庫 所収)

 創元推理文庫の『ラヴクラフト全集』のなかで、おそらく一番多く読み返しているのが、本作が収録されているこの第4巻だと思う。もともと「アーサー・ゴードン・ピム」が大好きだったってこともあるんだけど、著者の特徴的ないくつかのテーマを、収録された各話がそれぞれ分担していて、とてもバラエティに富んだ一冊になっている。おかげで何度読んでも全然読み飽きない。色々なアンソロジーに収録されている『ダンウィッチの怪』が著者の作品の集大成とするなら、この第4巻は丸々一冊で著者の作品世界の全貌を表してるって感じ。

 この『故アーサー・ジャーミンとその家系に関する事実』は、人外との婚姻、遺伝の恐怖を描いた初期の短編で、著者自身お気に入りの作品だったらしい。未知の類人猿をめぐる秘境小説っぽい側面もある。
 胸が悪くなるほど醜悪な容貌の主人公が、先祖が残したアフリカの民族に関する研究を進めるうちに、自らの忌まわしいルーツを知って破滅していく……というのが大まかなストーリーだ。悲惨なのは主人公のアーサーが、その容貌とはうらはらに、夢想家なポエマーで、非常に繊細な人物だったという点。
 少し前の記事にも書いたけど、「遺伝の恐怖」は著者の主要なテーマの一つで、様々な作品のなかで変奏されている。著者のいくつかの作品が、限りなく「SF」に接近しつつも「コズミックホラー」の領域に止まったのは、こうした過去をガン見するスタイルによるものではないかと思う。

 本作はラブクラフトの作品としては比較的装飾の少ない、叙事的な文体で書かれている。とある一族の歴史を叙述する本作に、その表現がぴったりなのは言うまでもないが、何度か読み返すうちに、もしもアーサー・ジャーミンの一人称だったらとか、秘境小説の部分をブローアップしたらどんなだろうとか、いっそ長編だったらとか色々考えさせられてしまう。そんな感じで想像力を刺激する、とても潜在力の高い作品だと思う。UMAファンにもおすすめ。


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Posted byserpent sea

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