H・P・ラヴクラフト『家のなかの絵』

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 H・P・ラヴクラフト(Howard Phillips Lovecraft)著, 大瀧啓裕訳『家のなかの絵』("The Picture in the House"『ラヴクラフト全集〈3〉』東京創元社 1984 創元推理文庫 所収)

 ニューイングランドのアーカム近郊で嵐にあった主人公が、風雨をしのぐため古びた木造家屋に身を寄せる。廃屋に違いないと思い込んでいたその家屋には、異様な風体の老人が暮らしていた。老人は『コンゴ王国』なる稀覯書を所持していて、文字はさっぱり読めないらしいが、長らく挿絵を眺めて楽しんでいるという。それは食人に耽る原住民が描かれた挿絵だ。人を食べれば普通の寿命以上に生きられるんじゃなかろうか……、そう老人が口にしたとき、天井から開いたページに赤いしずくが滴り落ちた。

 以前感想を書いた『ピックマンのモデル』(←前の記事へのリンクです)に続いて、これもまたタイトルの通り「絵」にまつわる話。作品解題によるとこの作品は「ニューイングランドを舞台にした一連の作品の第一作にあたり、アーカムが言及されるのもこの作品がはじめてである」(p.320)らしい。

 普通に読む分にはラヴクラフトには珍しいサイコホラーって印象だけど、作品解題にある歴史的な経緯を知ると実は……という作品で、もちろん初読のときは前者のように読み、解題を見てほえ〜っとなりました。とはいえ個人的にこの作品で好きなのは、そういった超常的なところやサイコなところよりも、冒頭嵐にあった主人公が勝手に家に上がり込んで、老人が秘蔵する『コンゴ王国』を見つけるまでの妖しく美しいくだり。創元推理文庫版で13ページほどの小品なのだが、主人公が『コンゴ王国』に辿り着くまでに5ページも費やされ、言葉を尽くして古色蒼然とした雰囲気が表現されている。緻密な描写が実に素晴らしい。「いい印象を与えるものではなかった」とか「説明もできないような戦慄を感じる」とか書きながらも、著者がこの古い家屋を嬉々として描写しているのがおもしろい。

 著者は本作についてC・L・ムーア宛ての書簡のなかで「わたしが目にしているニューイングランド僻地の特定の家々に充満する、神秘さと異質さという妙な雰囲気に対してわたしがおぼえる恐怖を表したもの」(p.320)と書いている。こうした世俗と隔絶した集落や一族、積み重なって歪みを生じた血筋をモチーフとした作品としては、有名な『インスマウスの影』("The Shadow Over Innsmouth")や『故アーサー・ジャーミンとその家系に関する事実』("Facts Concerning the Late Arthur Jermyn and His Family")が思い出される。『ピックマンのモデル』("Pickman's Model")もまたそういった作品の一つだった。血統、血筋、遺伝という、自ら選びようもない宿命に、著者は強い畏怖とロマンを感じていたのだろう。


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