エルウッド・D・バウマン『怪物 ネッシーを見た!?』

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 エルウッド・D・バウマン(Elwooc D. Baumann)著 長谷川善和訳・監修『怪物 ネッシーを見た!?』("THE LOCH NESS MONSTER")日本交通公社出版事務局 1976

 1976年に出版された本。著者はカナダ出身の元教師で、本書が刊行された時点ではスコットランド在住、ネス湖現象調査局会員。翻訳、監修は国立科学博物館古生物研究室・主任研究官(当時)で理学博士の長谷川善和。手堅い感じの本だ。著者は基本的にネッシー肯定派らしいが、本書には否定派の意見をはじめ、偽証や勘違いによる目撃情報もしっかりと取り上げられている。科学者やマスコミに対する不信感たっぷりの記述が目につくものの、全体の印象としては抑制的。若年層の読者を意識してか、とても分かりやすく、くだけた感じの翻訳文になっている。

 内容は1933年、ネス湖の北岸に沿って道路が建設されることになって以降の目撃情報を起点として、目新しい情報や大戦などの歴史的な出来事を区切りに、全部で7章に分かれている。各章ごとにいくつかの問題提起がなされ、それに関連する目撃情報と考察が続く、というのが大まかな構成。例えば「第3章 死骸とエサの謎」では、ネッシーの「代替わり」が取り上げられていて、ミニ(ベビー)・ネッシーについての目撃情報が載っている。目撃者はボートに乗った二人の少年。

船尾にいた少年が、異様なものが三つ、ボートのうしろに泳いできているのに気づいた。どれも長さ一メートルくらいだった。〔中略〕はじめウナギではないかと思ったが、すぐにそうではないと思った。よく見ると、胴体の前後に、足が一対ずつあった、前足は小さくて、ヒレのような形をしている。コンシディン(目撃者)の見るところ、前ヒレ?は水中でゆれ動いているだけで、べつにこれといった役割は、はたしていないようだった。うしろの大きな足が手動力で、水をけって進んでいた(p.66)


 あまり他の本では見かけない目撃例なので引用してみた。なかなかしっかりと観察されている。まずウナギに見えたというのが興味深い。サイズからなにから、一般的なネッシーのイメージから大きく外れていたらしく、それがネッシーである可能性に少年たちが全然思い至ってないところがいい。この話自体、後になって「そーいえば」って感じで語られたのだそうだ。ネス湖にはウナギが棲息していることがよく知られているが、サケ漁も盛んで20キロを越えるカマスが獲れることもあるという。

 本書の特徴としては、それぞれの目撃談が昔児童誌に載っていた読物風に、ちょっとした物語仕立てになっているところで、ネッシーに嵌ってスコットランドに移り住んだという著者だけに、ネス湖周辺の情景の描写はとてもいい雰囲気。それから巻末の「訳・監修者あとがきと解説」には、訳者の科学者としての見解が端的に述べられていて、非常に読み応えがあった。巷間言われるような「怪物」の存在はとてもあり得ないが、疑問はどうしても残るとのこと。

 ところでこの本は「日本交通公社」から刊行されていた。交通公社がなんでまたネッシー? と不思議に思ったけれど、最後の最後の「付録」に「ネス湖への交通」って項目があって納得。どうやら観光文化振興の一環らしい。旅行会社の「JTB」はもともとここの一部門で、1963年に分離、民営化されている。

ネス湖への交通
東京―ロンドン
 モスクワ経由で一四時間五〇分、北極まわり (アンカレッジ経由) で一五時間五○分。
 航空運賃=大人片道三〇万三三五〇円 (エコノミー・クラス)、往復はその倍。

ロンドン―インバネス
 直通列車(夜行)で一一時間三〇分 (ロンドンの始発駅はユーストン)
 鉄道運賃=大人片道二等一八ポンド (約一万二六〇〇円)、一等二七ポンド (約一万八九〇〇円)
     探検のついでに、英国内をまわるならブリット・レイルパス(英国均一周遊券)が便利で経済的。
     二等一ヶ月通用で大人三万五〇〇〇円、青年 (一四才-二二才) 二万六〇〇〇円で、期間内なら英国鉄道を自由に乗り降りできる。

インバネス―ネス湖
 インバネスからネス湖の西南端のフォート・オーガスタスまで、湖畔にそって路線バスが運行されている。
                                  (資料は一九七六年二月現在)(p.221)


 1976年といえば、翌1977年にはニュージーランド沖で謎の生物の腐乱死体が引き上げられて、ニューネッシーブームが巻き起こるその前年にあたる。当時大卒の初任給は94,300円だった。

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