手塚治虫『ボンバ!』

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 手塚治虫『手塚治虫漫画全集 MT93 ボンバ!』講談社 1979

 毎日がつまらない。学校では男性教師に目を付けられて理不尽にいびられる。戦時中、大陸で慰安婦をやっていた母親は、ぶくぶく太って寝てばかりだ。自堕落で当然のようにデリカシーのカケラもない。そのでかい尻に敷かれた父親は、自分のグチと酒に溺れた貧相な男。こんな両親の間に産まれた自分に、明るい未来が待ってるわけがない……って感じの奴が主人公。

「ボンバ」とは主人公の憎しみを反映して現れる巨大な馬の幻影で、実体があったりなかったりする。要は『禁断の惑星』(1956)の「イドの怪物」みたいなものらしい。
 オープニングは非常に印象的だ。真っ暗な夜の駅、線路の向こうから馬の蹄の音が響いてくる。ボンバはまず主人公をいたぶった男性教師を、次いで両親を殺す。そして唯一の慰めだった女性教師が、駅の将棋倒しに巻き込まれて圧死するにいたって、とうとう「先生をおしつぶしたやつら!!/みんな死ね 死ね/死んじまえっ」(p.80)なんてことに……。実は悪意を持って主人公に接していたのは男性教師くらいのもので、フィクションとして彼の置かれてる環境はそれほど過酷ではないのだけれど、鬱屈した雰囲気作りの上手さについ納得させられてしまう。
 この辺りまでが前半で、後半は「ボンバ」の派手な暴走が描かれる。電車やビルを破壊する巨大な馬の幻影というイメージが素晴らしい。表紙の雰囲気とも相まって『ヨハネの黙示録』の「蒼ざめた馬」って感じで、実写にしたらすごくかっこよさそうだ。

 後書きから推測するに、著者はこの作品をあまり気に入ってなかったらしい。それでもこの潜在意識の暴走というテーマには惹かれるものがあったらしく、少し後に発表された作品『鉄の旋律』でも同様のテーマが再び用いられている。本書には表題作の「ボンバ!」のほかに、短編「魔の山」が収録されている。


 ※フキダシからの引用は、読みやすいように改行を調整しています。


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Posted byserpent sea

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