末広恭雄『魚と伝説』

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 末広恭雄『魚と伝説』新潮社 1964

 この本は「淡水魚の伝説」「海魚の伝説」「水産動物の伝説」「怪異」という四つの章から構成されていて、38種類の魚介類や水生動物にまつわる伝説と考察が収録されている。なかには1種類について複数の伝説が取り上げられてるものもあるので、総話数としては70話以上。魚介類限定でこれだけの数の伝説や民話が集められているというのは、結構珍しいのではないだろうか。目当てはもちろん「怪異」、それと「水産動物の伝説」。

「はしがき」によると本書は「長年学んできた魚学の知識をつかって、魚の伝説や民話の神秘を科学的に追求してみたら、さぞや面白かろう」という魚類学者である著者の着想から編まれたものらしい。といっても伝説や民話にズバズバとメスを入れるって類いの本ではなく、著者自身がそうした伝説や民話を大いに楽しみ、科学的にはこうして解釈ができるよって感じの、大らかなスタイルのエッセイ集だ。

 目当ての「水産動物の伝説」に収録されているのは「イルカ」「クジラ」「タコ」「イカ」「ハマグリ」「アサリ」「真珠」。「カメ」は魚介類ではないからか未収録。多くの説話に登場するだけに惜しい。「クジラ」の項目では各地の「鯨の墓」や「鯨塚」「鯨碑」について言及されている。山口県長門市の「鯨の墓」はクジラが墓参りに来やすいようにと、海に向かって建てられているらしい。クジラは古くから色々な意味で特別視されていたようで、この「墓」や「塚」に類するものは全国各地に点在している。

「怪異」の項目は「化石」「死水」「人魚」、と少々寂しい。荒唐無稽なものが多いからかな。「化石」に収録されているのは、内部に水と魚が封じ込められているという有名な「魚石」の話。著者はこれを魚類の化石から発想された伝説ではないかと類推している。「人魚」については、ジュゴンなどの水生動物がその正体だろうとしながらも、ジュゴンの生息域から遥かに遠い土地にも人魚伝説が広く残っているというのは不思議とのこと。

 個人的には「参考文献」にある根岸鎮衛の『耳嚢』に出てくる超長い海の怪生物「いくじ」あたりの考察も読んでみたかった。『耳嚢』の記述は見てきたように生々しいし、あれは一体何なんだろう。それから色々な説話集で、かなり無茶な活躍をしてる「タコ」の記述が少ないのが残念だった。

 取り上げられている伝説や民話の大半は、江戸以前の説話集などから採られているが、なかには著者が直接聞き取りをしたものも収録されている。また実地調査に赴いている場合もある。基本的に魚売り場に並んでいるような、身近な魚介類が取り上げられていて、小難しい話はほとんどない。実はちょっとカゼをひいてしまって、読書に集中できてなかったんだけど、本書はどこを開いても楽しく読むことができた。

 いくつかの記事には関連する写真や図が、また巻末には「魚の伝説と民話分布図」が付いている。


 ※関連記事です↓根岸鎮衛『耳嚢』海と縁の下の変な生き物について
 http://serpentsea.blog.fc2.com/blog-entry-172.html


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