横溝正史『人面瘡』

0 Comments
serpent sea
 

 横溝正史『人面瘡』(『人面瘡』角川書店 1996 角川文庫 金田一耕助ファイル6 所収)

 美しい女性の脇の下の、野球のボールサイズのぷよぷよの腫物。このフレーズにピンと来たら、きっとこの作品を楽しめることと思う↓

それは世にも薄気味悪い腫物だった。土左衛門のようにぶよぶよとして、眉毛のあるべきところに眉毛がないのが、ある種の悪い病気をわずらっている人間のようである。目のかたちはありながら、眼球のあるべきところにそれがなかった。唇をちょっと開いているように見えるのだが、唇のあいだには歯がなかった。〔中略〕金田一耕助がそっと指でおさえてみると、ゴムのようにぶよぶよとした手触りだった(p.285)


 この作品は過去と現在の二つの殺人事件と、それにまつわる姉妹の確執を描いた物語だ。舞台は岡山。湯治に来ていた金田一耕助が、夜中に夢遊病の女を目撃する。女は金田一が逗留する宿の女中で、金田一に目撃された直後、遺書を残して自殺を企てたのだった。女は遺書のなかで、一人の妹を二度殺してしまったという奇妙な告白をしていた。

 ミステリーってことで一応あらすじはさわりだけ。でも本格的に謎解きを楽しむって感じの小説ではないように思う。短い作品のわりに頻繁に挿入される回想や、登場人物の多さのせいで、ややダイジェストっぽい印象も受ける。それでも冒頭の月光の下の夢遊病の女や、真夜中の稚児が淵の情景、そしてぶよぶよの腫物など、明晰な悪夢のようなイメージは素晴らしく、そういった怪奇な雰囲気を味わうにはもってこいの作品。

 肝心の「人面瘡」が全然ストーリーに絡んでこないから、単に雰囲気作りに出してみただけかと思いきや、オチですべての原因がそれにあったことが分かる。とても推理して答えに辿り着けるような気はしないけれど、怪異をそのまま放置しないあたりはさすが推理小説って感じ。


 ※「人面瘡」に関連する記事へのリンクです↓
 E・L・ホワイト『こびとの呪』 http://serpentsea.blog.fc2.com/blog-entry-101.html
 黒沼健『秘境物語』 http://serpentsea.blog.fc2.com/blog-entry-102.html
 香山滋『月ぞ悪魔』 http://serpentsea.blog.fc2.com/blog-entry-103.html


関連記事
serpent sea
Posted byserpent sea

Comments 0

There are no comments yet.

Leave a reply