安村敏信『肉筆幽霊画の世界』

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 安村敏信『肉筆幽霊画の世界』新人物往来社 2013

 中途半端にタイミングを外してしまってるような気がしないでもないが、これはこの夏に買った本の中でもかなり気に入った一冊。うちの直近の本屋は大手チェーンのわりにがんばって独自色を出していて、ここ数年夏になると、自由研究のコーナーの横にこぢんまりとした怪談コーナーが設けられる。竹書房やハルキ文庫の怪談本と一緒に、倉庫から出してきたのか、ほかの支店から持ってきたのかは分からないけれど、普段あまり店頭では見かけないような本が並ぶ。この本もそこで見つけて買ったものだ。

 本書には江戸から明治にかけての幽霊画がぎっしりと収録されている。肉筆画限定でその数百点。A5変形判という絵の本としては小さめのサイズながら、図の見やすさ、分かりやすさには充分な配慮がなされている。印刷もとても美しい。
 本文は画題や絵の雰囲気から「第一章 円山応挙の幽霊画」「第二章 美人の幽霊画」「第三章 飛び出す幽霊画」「第四章 怖い幽霊画」「第五章 ユーモア幽霊画」「第六章 親子の幽霊画」「第七章 男の幽霊画」「第八章 骸骨の幽霊画」って感じに分かれていて、それぞれの章に円山応挙、河鍋暁斎、月岡芳年、伊藤晴雨などの作品が振り分けられている。作者不詳の作品も数多い。随分珍しい絵も収録されているらしい。「第二章 美人の幽霊画」「第三章 飛び出す幽霊画」「第五章 ユーモア幽霊画」は、サブタイからは怖くなさそうな印象を受けるけれど、むしろ「第四章 怖い幽霊画」に収録された絵よりも怖いくらいの絵が載っている。

 前に絵のことはよく分からないって感じのことを書いたけど、それでも本書に収録された幽霊画からは、怖ろしさのほかにも儚さや悲しさや諸々のダウナーな感情のニュアンスを感じとることができた……ような気がする。なかでもぐっときたのは、「第二章 美人の幽霊画」に収録されたこの月岡芳年の『幽霊図』だった。↓

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 解説に「妖艶な姑獲鳥」とある通り、まさに「うぶめ」のイメージそのままの姿だ。腰巻きには出産の状況を窺わせる大量の血液が染み込み、足もとは背景のぼんやりと暗い空間に溶け込むように消えている。静かで凄惨な印象を受ける。

 ところで「姑獲鳥」で画像検索すると、鳥の妖怪、赤ん坊を抱いた半裸の女、その両方を合体させた感じの怪物の画像がごちゃっと出てくるが、これは中国由来の鳥の妖怪「姑獲鳥」(こかくちょう・うぶめ)と、日本の妖怪「産女」(うぶめ)が混同されたために生じた混乱で、本来はまったく別の妖怪らしい。妖怪図鑑などでも、とくに古いもののなかでしばしば同様の混同が見られる。
「産女」については『今昔物語集』の中に「其ノ國ニ渡ト云フ所ニ産女有ナリ。夜ニ成テ其ノ渡為ル人有レバ、産女、児ヲ哭セテ『此レ抱々ケ』ト云ナル〔中略〕此ノ産女ト云フハ、「狐ノ、人謀ラムトテ為ル」ト云フ人モ有リ、亦、「女ノ子産ムトテ死タルガ霊ニ成タルト」云フ人モ有リ」(※)とあり、鳥の妖怪との関連を窺わせる記述は見られず、狐が化けてるのかもなんていわれている。月岡芳年の絵はもちろんこっちの「産女」のイメージ。

 本書には図版とその解説のほかにも、各章のあいだに六つのコラムが載っていて、どれも興味深く読むことができた。それによると上記の「うぶめ」は幽霊画の画題としてよく選ばれるものらしい。また巻末には「幽霊画コレクションの見られる主な寺院・博物館」が紹介されている。夏も終わってしまったけど、季節感とか関係なしに幽霊OKな人にはすごくおすすめの本。


 ※『今昔物語集 巻第二十七 頼光郎等平季武値産女語 第卌三』(山田孝雄, 山田忠雄, 山田秀雄, 山田俊雄校注『日本古典文学大系〈25〉今昔物語集 四』岩波書店 1962 所収)


  安村敏信『肉筆幽霊画の世界』新人物往来社 2013


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