畠山弘『山形県怪談百話』

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 畠山弘『山形県怪談百話』六兵衛館 1983

 本書には山形県の怪談が、目次の見出しで121項目、全129話も収められている。タイトルに「百話」とあるのは語呂が良かったから、ということらしい。本書と大陸書房から出ていた同じ著者の『東北の伝奇』所載のものを合わせると、山形県の「怪奇譚」はほぼ出揃うというのだから大変な労作だ。全体の印象としては「怪談」というより、明治以前の、民話らしい民話って雰囲気の話が多い。

 県域の大半を山地が占めるという山形県の地勢から、収録されている話には山や森、山里を舞台にしたものが多く、狐や狢(むじな)といった獣の類いが大活躍している。また川の怪の話に印象的なものがいくつもあった。一例をあげると「八七話 川女」、これは川狩りをすると怪異に合うと伝えられている日に、従者を連れてわざわざ川釣りに出かけた武家の息子の話で、そこに現れた怪異がかなり恐ろしい。

主従四人釣糸を垂れていると、下流の方から逆波を立ててのぼってくるものがある。体は水中にかくれて定かではないが、水の上にあげた顔はと見れば、藻絡みの長い黒髪を八方に乱し、顔青く深淵のような黒い目、主従の方を向いてにこっと笑った(p.178)


「逆波を立ててのぼってくる」という勢い、スピード感が怖い。これは鬼面川の上流にあたる綱木川での出来事とされている。後に従者も含めた四人のうち、武家の息子と従者一人が死亡、残り二人の従者も「しばらく命は長らえたものの、ぬけがら同様の日々を送った」(p.178)という。

 山の怪談がメインなだけあって、隠れ里にまつわる話もしっかり収録されている。「一一八話 隠里」はそのものズバリ、それから「三七話 骰子」も少し変わってるけど同系統の話だ。ともに異空間に迷い込んだ主人公が、ほんの一時過ごしたつもりで里に帰ってみると、とんでもない年月が過ぎているというもの。残された側からすると神隠しの話でもある。

 前述のように本書には獣の登場する話が数多く収録されているが、中でも一番気味の悪い印象を受けたのが「九五話 狢森」だった。山菜採りに出たまま行方知れずになった地主の娘が、長谷堂の山中の狢森で狢の女房になっている。そんな知らせが地主の許へもたらされたのは、娘がいなくなってから数年後のことだった。地主は娘と男に化けた狢を屋敷に連れて帰り、狢に犬をけしかけて殺してしまう。

娘はその後聟を迎えた。まもなくみごもり、月満ちて生れてきたのが胸に八つの乳房がついた赤子である。そんなかたわでも子供は子供と育てていたのだが……
 一夜、八つの乳房から八筋の赤い乳がほとばしりでた。と見るまに屋敷はめらめらと燃えあがり、火焔の中に崩れ落ちたのである(p191)


 まるで花輪和一の漫画のような奇怪なイメージだ。花輪タッチの赤ん坊の顔まで想像できてしまう。そしてこの話にもまた神隠し譚の側面がある。異界に迷い込んだり、天狗や狢に連れ去られたりと、神隠しには本当に様々な背景があるようだ。もしも神隠されるなら、「一一八話 隠里」に出てきた「桃の花の精のような娘」に誘われるってシチュエーションがベストだなぁ。

 それぞれの話はごく短いけれど、さすがに全129話ってことで興味深い話も数多い。ここで取り上げた話の他にも、「猫又」や「ろくろ首」の話がまとまって載っている。歴史上の人物と関連した話も結構あって、そっちに詳しい人には別の面白さがあるかも知れない。また地名がばっちり記されていて、嬉しいことに関連する史跡などの写真が附載されているから、山形県の人や地理に明るい近県の人はより楽しめることと思う。

 ところでUMAファンにとって山形県と言えば、いつかはお祭りの時期に訪れてグッズを買い漁りたい、もちろん「大鳥池」にも「タキタロウ館」にも行ってみたい、でおなじみの「タキタロウ」だけれど、残念ながら本書では名前がちらっと出てくるだけだった。キャラ的に「怪談」にはそぐわないのかな。


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Posted byserpent sea

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