平山夢明『「超」怖い話 Κ(カッパ)』

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 平山夢明『「超」怖い話 Κ(カッパ)』竹書房 2007 竹書房文庫

 竹書房版「「超」怖い話」10冊目の本書は、著者初めての単著となった。2007年当時は実話怪談のちょっとしたブームだったらしく、本シリーズと競合する本がいくつも刊行されている。まえがきでは「中古エンジン組はますます切磋琢磨しなければ到底太刀打ちのできない精鋭や俊英がどしどし産まれてくる」なんてノリで書きながらも、著者の気合いは並々ならぬものだったようで、それはこのシリーズ屈指の一冊として見事に結実している。

「衣」幼い頃、漁師の祖父とともに沖に出た体験者が不思議なものに遭遇する。それはまるで海中を漂うトイレットペーパーのようで、幅は50センチほど、先端が見えないほど長い。真っ白でつるつるとしていたという。現地では「乙姫の衣」と呼ばれていたらしい。巨大なホヤ(Giant Pyrosome←グーグルで検索。面白い画像があります)かなにかだろうか。ハードな心霊体験がずらっと並ぶなかにあって、短い話ながら異彩を放っている。

「踏切」本書には幽霊の登場する怖ろしい話がいくつも収録されているが、上記の「衣」やこの話など、幽霊の登場しないエピソードにも印象的なものが多い。
 夜、自転車で帰宅途中だった体験者が踏切で転倒する。そこは人身事故が起きたばかりの踏切だった。身を起こすと、周囲に人の歯が散らばっている。猛スピードで踏切をあとにした体験者だったが、しばらくすると突然自転車の前輪がパンクしてしまう。真っ二つに裂けたタイヤのなかにはぎっしりと……という話。

「ネット予約」格安の宿に泊まった二人組の話。寝てる体験者の真上に幽霊が出るというオーソドックスな筋立てながら、それでもこの話がとくに印象に残ったのは「口の中が魚のアラを舐めたように生臭かった」(p.104)という一文によるところが大きい。体験者が感じた不快感をまずリアルに感じさせることによって、その元となった怪異の迫真性まで補完している。著者はこういった簡明直截で、虚実の薄皮を突き破るような表現が本当に上手い。天井の幽霊の話にはもう一編、幽霊の凄惨な有様が印象的な「歯噛み」というエピソードもある。

「かりんと猫」愚かで罰当たりな人々のエピソードもまた、著者の得意とするジャンルだ。多くの場合、彼らは子供か学生で、愛すべきバカなんていってられないほどの邪悪さをナチュラルに備えている。そしてその邪悪さは決まって動物や老人などの弱者に向けられる。この系統のエピソードのクライマックスは、罰当たりな彼らがどんな罰を受けるかではなく、彼らが見せる人の悪意の純粋な発露、その糞っぷり。この話に登場するタモツというガキ大将もそんな罰当たりの一人で、相応に振舞い相応の罰を受ける。
 同様の傾向の話にはほかに、「実験」「疎開先で…」「猫と半分」などがある。どれもバカのおぞましい行動が印象的な罰当たりエピソードだ。

「地下で声」住み込みの風俗嬢が体験したハードな心霊譚。夜になると壁のなかから話し声が聞こえる。最初は不明瞭だったその会話は、やがて罵倒や叫び声へとエスカレートしていく。ある時壁に開いた穴のなかから、レジ袋に入った夥しい女の爪が見つかった。血痕らしきものが黒々と附着している。そして体験者は夢を見た。凄惨な拷問を受け、見世物にされながら肉体を削られていく女の夢だ。目覚めると壁の穴から猛烈な勢いで黒髪が吹き出しはじめる。
 出来事のほとんどが昼夜の区別の無い、地下の風俗店の一室で進行するため、全編に息苦しいような閉塞感が漂っている。徐々にエスカレートする心霊現象がつぶさに描写される反面、事の真相に関しては大いに解釈の余地を残して想像力を刺激する。優れた心霊譚だと思う。

 上記の作品以外にも印象的なエピソードが多い。「殲滅」は意識して他人に伝染させる事が可能な、凶悪なある「呪い」にまつわる話。実話怪談の様々な嫌な要素を、濃縮、凝集させたような一編で、怖ろしさよりも嫌悪感を強く感じた。ほかにも「禁忌」「案内を乞う者」「マリヤちゃん」「お泊まり」「こつこつ、ずるずる」「布団」など、いちいち付箋を貼っていったら、付箋だらけになってしまった。不思議な話、じゃなくて、ストレートに怖い話を楽しみたい人にはおすすめの本。


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Posted byserpent sea

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