黒沼健『地下王国物語』

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 黒沼健『地下王国物語』新潮社 1966 異色読物シリーズ

 新潮社から出ていた黒沼健の「異色読物シリーズ」の一冊。以前取り上げた『秘境物語』(←前の記事へのリンクです)がシリーズ第1冊目、本書はその10冊目にあたる。白地に赤い文字と黒のペン画調の絵柄というシンプルな装丁で、シリーズ中でもとくにかっこいいデザインだと思う。

 少し前に江戸川乱歩の『青銅の魔人』(←前の記事へのリンクです)の感想で「地下に美術館や博物館を作って、そこでこっそりと作品を鑑賞するなんて、想像しただけでもわくわくする」と書いたけれど、この本に出てくるのは美術館どころか「地下の王国」、わくわくもウナギの滝登りだ。
 内容は大きく三つの章に分かれていて、全部で17編の怪奇実話が収録されている。各話のタイトルをあげると、最初の「地下王国物語」の章には「地下王国“アガルタ”」「地球空洞論」「地中の巨人国」「“グラント将軍”号の驚異の遭難」「“空飛ぶ円盤”の出発地」、次の「幻想と怪奇」の章には「ピラミッド“真”の秘密」「アンデスの黄金都市」「黒衣の三人の男」「マドモアゼル・エレーヌの火星時代」、最後の「奇談と謎」の章には「幻島奇談」「漂流奇談」「“生れ替り”奇談」「神秘の二個の木環」「アヴィラの聖者テレサ」「ハイチの幻の町」「七十メートルの大津波」「怪奇のスパイ・セックス部隊」という構成。慣れ親しんだ単語や、中身の全然予想できない妖しいタイトルが並んでいて、目次だけでも嬉しくなってしまう。とにかく「秘境」っぽい雰囲気は特濃だ。

 肝心の「地下王国物語」は上記の通り1章めにまとめられている。「地下王国“アガルタ”」では水木しげるの漫画で(個人的に)有名な伝説の理想郷「アガルタ」を中心に、各地に伝わる「地下王国」といくつかの「説」について大まかに触れている。主な元ネタはポーランド(本書では「ロシア」とされている)の探検家で作家の、フェルディナンド・アントニー・オッセンドフスキー(Ferdynand Antoni Ossendowski)の著作『獣と人と神』("Beasts, Men and Gods")。この『獣と人と神』は『動物と人と神々』というタイトルで戦前に邦訳、出版されているが、残念ながら入手困難(原書はネット上に公開されています)。それだけにその要旨を簡潔に提示してくれる黒沼健の著作はありがたい。『獣と人と神』はこの『地下王国物語』に限らず「アガルタ」やその入り口もしくは首都であるとされる「シャンバラ」「シャングリラ」関連で取り上げられることの多い本なので、復刊を望みたいところ。
「地球空洞論」「地中の巨人国」は「地球空洞説」(詳しくはwiki等参照)に関する話で、有名なレイモンド・バーナード(Raymond Bernard)による「空洞入り口の図解」も紹介されている。帆船が地殻の縁をくりっと回って、地球の内側に入り込んでしまう図だ。科学の進歩にともなって、現在では「地球と月が地続き説」並みに廃れてしまった「地球空洞説」。それでもこうして読み返してみるとやはり魅力的で、そんなアホなと思いながらも面白い。地下空洞の中心には太陽が輝き、巨人やでかい動物や怪物が跋扈してたりする。しかも地底人の科学力は地上の人類より優れているとか。……周知の通りこの「地下の別世界」という概念は、フィクションの分野において多大な影響を残している。

 他のタイトルについても少し触れておくと、「マドモアゼル・エレーヌの火星時代」はこれまでに3回転生したという女性の話。そのうち1回は火星で暮らしていたという。火星時代のスケッチも載ってる。「怪奇のスパイ・セックス部隊」はハニトラ要員の話ではなくて、ハニトラにかからないように事前に男の諜報員をセックス漬けにするという、旧ソ連の女性部隊の話。
 著者はいかなる説にも肩入れすること無く相変わらずニュートラルで、こんな面白いこと言ってる人がいるよってスタンスだ。文体は平明で分かりやすく、エロやグロを書いても下品にならない。オカルト書籍かくあるべしって感じ。今手元にある黒沼健の本は30冊そこそこ、全然その著作の全貌を把握できない。どこかの出版社が思い切って全集を出してくれると嬉しいんだけど。


  レイモンド・バーナード『地球空洞説』角川春樹事務所 1997 ボーダーランド文庫


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