伊藤潤二『漂着物』

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 伊藤潤二『漂着物』(伊藤潤二『伊藤潤二恐怖マンガCOLLECTION〈7〉なめくじ少女』朝日ソノラマ 1998 所収)

嵐の次の日の早朝に、一度は海端に出て見ずにはおられぬという気持ちだけは、どこの島にもまだ一様に残っている。是は無意識の伝承というべきものであろう(柳田国男『海上の道』岩波書店 1978 岩波文庫 p.22)


モササウルスの死体が誰の注意もひかないで腐っていくことのできる無人の海岸が、世界には何千キロとなく存在するのだということを、忘れてはならない(J=J・バルロワ著, ベカエール直美訳『幻の動物たち〈上〉』早川書房 1987 ハヤカワ文庫 p.66-67)


 震災の影響もあって多少なりとも漂着物への注意が増している昨今、今年も何件かの「漂着物」がニュースになっていた。つい一ヶ月ほど前にも静岡県の御前崎海岸に、宇宙船っぽい物体が流れついたとか。↓

 静岡新聞「御前崎海岸に巨大漂着物 宇宙船?関心集まる(2012/8/16 09:03)」
 http://www.at-s.com/news/detail/397737972.html

 もちろん漂着物界の王者、ヤシの実、じゃなくてUMA系の漂着物も健在である。例によって続報の類いがほとんどないのは残念だけど、しっかりグロブスターや謎の死体が漂着している。

 本作はそんな謎の巨大生物(体長30m)が漂着した海岸の一幕を描いたもので、ホラーというより、SF的な発想で描かれた作品だと思う。冒頭から漂着物の存在はすっかり近辺に知れ渡っていて、科学者やマスコミや大勢の野次馬が、腐臭にめげずに詰めかけている。主人公は野次馬のなかの一組の男女。ただし主人公といっても終始見物に徹していて、能動的に活躍するようなことはない。
 漂着した生物は見るからにおぞましく、嫌なリアリティがある。魚のような環形動物のような奇怪な外見で、頭部にごちゃっと集まった目玉状の器官(うぇぇ)も、全身にちょろちょろ生えた触手も気持ちが悪い。ぱっと見た感じ深海生物の雰囲気。2007年にニュージーランドで見つかったUMA(体長14m、実はエボシガイの群生) ↓ と似てなくもない(かなりグロいです)。

 Neatorama "Sea Monster or Just Barnacles? (June 9, 2007 at 8:59 PM) "
 http://www.neatorama.com/2007/06/09/sea-monster-or-just-barnacles/

 謎の生物漂着にまつわる騒動を描写するだけでも、充分に読み応えがありそうな気もするけど、この作品はそれだけでは終わらない。生物の体内に多くの人体がぎゅーぎゅー詰めになっていることが判明する。驚いたことに彼らは全員生存していて、救出されたものの、身体と精神に著しい異常をきたしていたのだった。「彼らは深海で透明な皮膚ごしに/一体何を見たのだろうか」(p.42)とは、作品を締める主人公のモノローグである。深海を想像すると怖ろしいような、楽しいような、高揚感のある不思議な気分になる。そんな心のツボを的確に突いてくる作品。

 本作が収録されている『伊藤潤二恐怖マンガCOLLECTION〈7〉なめくじ少女』には、表題作のほかW・H・ホジスンの作品を彷彿とさせるものなど、生理的に相当来る短編ばかり全7話が収録されている。


 ※フキダシからの引用は、読みやすいように改行を調整しています。


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Posted byserpent sea

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