加藤一『「超」怖い話 Ν(ニュー)』

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 加藤一編著, 久田樹生, 松村新吉共著『「超」怖い話 Ν(ニュー)』竹書房 2009 竹書房文庫

 シリーズ通巻24巻目にあたる本書は、トータルなバランスのよさよりも、興味深い話をできるだけ多く詰め込むことを優先したような構成で、最新巻まで含めたなかでも好きな一冊だ。収録された話のバリエーションは様々、やや呪い系の話が多めな感じ。

「狗畜生」体験者はごく普通に暮らしているように見えるけれど、誰にも、恋人にも気付かれずに、実は静かに狂ってるんじゃないか、そんな疑念を抱かせる一編。「やはり人間が恐ろしい」なんていうとチープだけど、体験者の狂い方がはんぱなく人非人で、彼が遭遇した怪異(人面犬です)そのものよりも、よっぽどその行状の方が怖ろしい。

「やまめ」本書のなかでも風変わりな、民話のような話。トレッキングしていた体験者が、山中で妖怪に出くわす。ただそれだけの話なんだけど、妖怪のキャラが妙に魅力的で印象に残る。「濡れ女」「さら蛇」(←詳しくはwiki等参照)タイプの妖怪らしいけど、言葉遣いや身振りに愛嬌があっておもしろい。

「かりんとう」得体の知れない不気味な話だった。体調不良を訴えていた体験者の女性が錯乱して母親を襲う。直後、意識を取り戻した彼女は、激しくえずき、口からかりんとうのような黒い塊を吐き出した。
 長い物語の結末の部分だけを見せられてるようなもどかしさを感じるが、これも実話怪談の面白いところだろう。母親はなにか知っているようだが、なにも語ろうとはしない。錯乱時の激しい様子から、分解するかりんとうの細かい描写まで、神経のよく行き届いた好編。

「遡上 二題」川で変なものを見たって話が二つ。とくに興味深かったのは最初の「カーボンズ」の話。ただ見ただけ系の話は、そのモノの描写がメインになる分、イメージを掴みやすい。「カーボンズ」は「川坊主」のことらしいとのことだけど、怪異というより未知の生物っぽい。

「旅土産」昔、祖母に「石なんて拾ってくるもんじゃないよ」って叱られたことを思い出した。河原からいい感じの丸い石をせっせと拾ってきてたんだけど、最後は全部返しに行かされたのだった。石がダメな理由を聞いても、祖母は「昔からそう言う……」って感じで、さっぱり掴みどころがなかった。
 この話では恐山の積み石を、旅の土産に持って帰ったおっさんが酷い目に会う。同行したなかにがっつりキャラの立った盲目の僧侶がいて、いい味を出している。物凄い勢いで追ってくる女に対して、レーダー的な役割で話を盛り上げる。

「雨宿り」自転車で旅行中の体験者が、雨宿りに立ち寄った廃屋で怪異に遭遇する。それは赤い着物をまとった、人形のような少女の姿をしていたという。全身の熾烈な虐待の痕跡、それをさらけ出した少女が体験者に這い寄る……。物悲しく美しい、短編小説のような雰囲気の一編。

「許されていないから」ふざけて嫌がる友人を神社の境内に連れ込んだところ、突然異様な発作を起こして意識を失ってしまう。泡を吹いて倒れた友人の口の中には……って話。これも気味の悪いエピソードだ。宗教的な背景があるようだが、よく分からない。自分には起こらなそうな出来事なのが救いだ。前出の「かりんとう」と似た感じの話。

 こうして見てみると好みの話が前半に偏っているが、後半にも好エピソードは多い。「話しておかねばならぬこと」「慰めの予感」は女の業を感じさせる正調怪談。話も怖いけど、体験者の今ひとつ冴えない様子にも共感してしまう。また最初に書いたように、やや多めに収録されている呪い系の話は、「居酒屋にて」「改造倉庫」「間際の言葉」あたりがそんな感じだろうか。どれも不気味さを感じさせる好編だと思う。


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Posted byserpent sea

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