ジェニファ・クラック『手足を持った魚たち 脊椎動物の上陸戦略』

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 ジェニファ・A・クラック(Jennifer A. Clack)著, 池田比佐子訳, 松井孝典監修,『手足を持った魚たち 脊椎動物の上陸戦略("Gaining Ground : The Water to Land Adventure")』講談社 2000 講談社現代新書 シリーズ「生命の歴史」〈3〉

 古い話で恐縮だが、ハルキゲニアの復元図が上下逆さまだったってことを知ったとき、軽くショックを受けたことを覚えている。訂正された新たな復元図は、単に上下ひっくり返しただけのようにも見えるが、訂正前のハルキゲニアの、海底を爪先で立って歩くような、ちょっと品のある不思議な雰囲気は失われて、這ってる感の強い生物になってしまっていた。近頃ではさらに復元が進んで、派手めのナマコみたいになってる。ハルキゲニアって学名には「夢に出てきそうな」って感じの意味があるらしいが、これでは完全に名前負けだ。各段階の復元図や立体が沢山出てくるので、試しに画像検索してみて欲しい→「ハルキゲニア」。……やっぱり旧復元が一番かっこいい。

 最近めっきり毛深くなった恐竜を例にあげるまでもなく、古生物の復元は刻々と更新され続けている。もちろん学術的には最新のものが良いに決まってるのだけれど、想像で補うところが多い分、古い復元図の方が楽しい、かっこいい形をしてることが多い。「なんかおもしろそう」程度のノリでこの手の本を読みはじめているので、かっこいいとか絵が綺麗、もしくは絵が沢山載ってるとかは結構重要だったりするのだ。

 本書で取り扱われる「手足を持った魚たち」は、「アカントステガ」(※1)や「イクチオステガ」(※2)といった、四肢を発達させ水中の生活を離れたデボン紀の生物と、それに続く石炭紀の四肢動物である。少し前に『波打際のむろみさん』(※3)で、ちらっとネタにされていたけど、その重要性にも関わらず恐竜などに比べるとずっとマイナーで(人気がなくて)、石炭紀に登場した四肢動物のなかには多少怪物っぽいのがいるものの、かっこいいかどうかっていうと、あまりかっこよくない。イメージとしてはイモリやサンショウウオ、短い足の生えたナマズあたりを想像してもらえると、当たらずと雖も遠からずって感じ。しかしこれらの古生物は紛れもなく人類の祖先なのだ。

 そんなかっこよくないけど重要な古生物が、いかにして上陸するにいたったかについて、本書では化石として残された骨の変化を通してそのプロセスを説明している。「手足を持った魚たち」の陸上への進出は、全然スマートじゃなくて、グズグズと要領の悪いものだったようだ。それでもエラが舌に、ヒレが四肢に変化していく過程はとても興味深く、実感を持っては想像できないけれど、たった今キーボードを打ってるこの指が、大昔は魚のヒレの一部だったかと思うと不思議な気持ちになる。

 古生物学とか地質学とか聞くと、いかにもややこしそうで取っ付き難い気がするし、実際のところ本書にも片仮名の単語や専門用語が頻出する。そういった用語や「化石」「系統樹」「地質年代」などの基礎的な事項を、本書ではかなり噛み砕いて解説している。また一部に見辛いものがあるものの、図や表も沢山載っているし、巻末には簡単な「用語解説」が付いているから、それらを参考にじっくりと読み進めれば(結構時間かかりました)、今までこのジャンルには余り馴染みがなかった人でも充分に楽しめると思う。

 個人的に一番疑問に思っていたのは、水中に適応していた生物がなんでまたわざわざ陸に上がったのか、という点だった。それについても諸説が詳しく解説されているのだけれど、実はまだはっきりしたことが分かってないらしい。ずっと分からないままかもしれない。ただ上陸した時点で、陸上の環境が生物が棲息できる状態に整っていたことは確かで、序文には「生命とは、棲める環境が整っていれば必ずそのニューフロンティアに進出するという特性を持った存在なのだ」(p.3)とある。最近でも「地球近くで3個のスーパーアース発見」(※4)なんて無性に気になるニュースがあったけど、人類が宇宙に抱く情熱や好奇心もまた、この原始的な「生命の特性」の発露だったりするのかもしれない。


 ※1.「Tree of Life Web Project」の「アカントステガ」の項目↓本書の著者によるもので、感じのいい復元模型が載ってます。2006年6月13日更新。
 http://tolweb.org/Acanthostega

 ※2.「Tree of Life Web Project」の「イクチオステガ」の項目↓本書の著者によるもので、2006年2月9日更新。
 http://tolweb.org/Ichthyostega

 ※3. TVアニメ『波打際のむろみさん』、「すたちゃまにあ」内のサイト↓いえちーさん可愛いです。
 http://starchild.co.jp/special/muromisan/

 ※4. AFPBB News「地球近くで3個のスーパーアース発見、全てハビタブルゾーン内」(2013/06/26 12:24)↓
 http://www.afpbb.com/article/environment-science-it/science-technology/2952545/10960876


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