つのだじろう『亡霊学級』

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 つのだじろう『亡霊学級』秋田書店 1986 秋田コミックス・セレクト

 心霊・オカルト系の作品を数多く発表して、そのジャンルの第一人者という印象の著者だけど、実際にはほかのジャンルの作品も相当数あって、著者自身そういったレッテルを貼られるのは痛し痒しだったと語っている。70年代から80年代にかけて集中的に発表された代表作の、社会的な影響やその完成度の高さから、そうしたイメージが定着していったのだろう。

 この作品は著者の代表作の一つ『恐怖新聞』(1973年)に先行して、雑誌『少年チャンピオン』に発表された心霊・オカルト系の最初の作品だ。著者によると、この『亡霊学級』の好評を受けて、『恐怖新聞』と『うしろの百太郎』(1973年)の連載が決まったという。読者アンケートでもぶっちぎりのトップだったとか。これらの作品群をきっかけに、70年代の空前の心霊・オカルトブームは巻き起こった。

 内容は超オーソドックスな「学校の怪談」ネタに、独自の味付けを加えたもの。完成度の高さという点では、著者の作品のなかでも群を抜いている。この手の本に興味のある人は、ぜひ手にとってみて欲しい。著者渾身のオムニバスである。
 以下収録された各話について少し。

「第一話 ともだち」一応「死んだ子の机」の怪談をコアに、様々な「怖さ」が詰め込まれた第一話。どんどん孤立していく主人公が、金属バットでクラスメイトを撲殺してしまうまでの流れは、心霊が関係なくても怖い。約束を破ると指切りした小指が腐るといった嫌なシチュエーションもある。

「第二話 虫」不快感MAXの特殊なエピソード。食べ物が片っ端から青虫になるという、異様な出来事が起こってはいるのだが、それが超常現象かどうかは微妙なところ。「よくキャベツの中なんかに虫がいて 知らずにかみ切っちゃうことがあるだろう?」「ブチュッ!!と音がして…なんともいえない にがいくさいにおいがして…」「あれいじょういや〜な気持ちは ザラにはないよ…な!」(p.65) ……実は全然そんな経験ないんだけど、強烈に生理的に訴えてくる名セリフだ。虫がダメな人は回避した方がいいかも。

「第三話 水がしたたる」古典的なプールの怪談。死亡事故のあったプールで、長い髪の毛が体に絡まるなどの怪奇現象が発生する。気合いの入った溺死体の描写が見所。

「第四話 手」汲み取り式のトイレの怪談。これも古典的な怪談だけど、「トイレから出てくる手」というごくシンプルなモチーフに、いじめを絡めている。聞くところによると水洗が完備された今の学校でも、この手の怪談はしっかり残っているらしい。

「第五話 猫」唯一学校の外で怪異の起きる話。といっても発端は下校時で、石をぶつけて猫を殺してしまった主人公のもとに、猫が化けて出る。第二話、第四話とともに訓話的なエピソードでもある。

 ところで本作のようなオカルト漫画は、実際の「学校の怪談」にどのくらいの影響を及ぼしたのだろうか。ブームと呼ばれるほど広く読まれていたのだから、「学校の怪談」の伝播や類型化に、さぞかし甚大な影響を及ぼしたに違いない……とは思うのだけれど、民俗学の分野においては、その辺はあまり顧みられてないようだ。「学校の怪談」研究の嚆矢とされる松谷みよ子の『現代民話考』(※1)や、常光徹の『学校の怪談 口承文芸の展開と諸相』(※2)で取り上げられた証言のなかには、オカルトブーム以降ものも数多く含まれているはずなのに、本作をはじめとする諸々のオカルト漫画にはほとんど触れられていない。(※3)ファンとしては寂しい限りだ。
 あのオカルト関連の情報が豪雨のように降り注いだブームの前と後で、学校という特定の空間における口承文芸が、どんなふうに影響を受けたのか、また受けなかったのかというのは、とても興味深いテーマであると思う。今後そういった研究がなされて、面白い本が出ると嬉しい。

 本書には表題作の『亡霊学級』のほか、『恐怖新聞〈番外編〉』が2編、短編『金色犬』『赤い海』が収録されている。どれも読み応えがあってすごくお得。BOOKOFFの100円コーナなどでたまに見かけることもあるけど、秋田文庫版が同様の内容でより手に入りやすいと思う↓

 

 一番最初に出た少年チャンピオンコミックス版には『恐怖新聞〈番外編〉』と『金色犬』が未収録だけど、これも入手しやすい。表紙のイラストが味わい深い↓

 

 ※1. 児童文学作家の松谷みよ子が、当時早稲田大学教授だった鳥越信により「学校の怪談」の収集の必要性を示唆されたのが1970年ごろ、その成果である『学校の怪談』の発表が1980年、それが『現代民話考』の一冊として刊行されたのが1987年である。(※参考. 松谷みよ子『現代民話考〈7〉学校 ほか』筑摩書房 2003 ちくま文庫)
 ※2. 常光徹『学校の怪談 口承文芸の展開と諸相』ミネルヴァ書房 1993 “Minerva 21世紀ライブラリー 3”
 ※3. 上記『学校の怪談 口承文芸の展開と諸相』には「テレビ・ラジオ・雑誌などのメディアが大きな影響を及ぼしているのは事実」(p.60)という記述がある。

 ※フキダシからの引用は、読みやすいように改行を調整しています。


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Posted byserpent sea

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