香山滋『オラン・ペンデクの復讐』

0 Comments
serpent sea
 香山滋『オラン・ペンデクの復讐』(『香山滋全集〈1〉海鰻荘奇談』三一書房 1993 所収)

「オラン・ペンデク」「オラン・ペッテ」という、二つの未知の人類を発見した宮川博士が、その発表の壇上で突然ミイラ化して死亡する。彼はその存在を証明するために未知の人類を殺害し、採取した鰓や皮膚を自らに移植していたのだった。……というのがストーリーの端緒。本作は未知の人類「オラン・ペンデク」による復讐劇である。

 宮川博士が発見したという「オラン・ペンデク」は、スマトラ島に棲息する未知の人類だ。「ペンデク」=「小さい」という名の通り非常に小柄で(「オラン」は「人」という意味)、すべての個体の額の中央にバラの形の赤痣があるという。その白い肌には体毛がなく、しっぽもない。原始的な生活を営んでいるが、知能は相当に高い。この「オラン・ペンデク」は著者の創作ではなく、マレー半島やインドネシアに棲息しているといわれる、れっきとしたUMAだ。もちろん本作ではそれなりにアレンジされているが、かなり有名な未確認生物で実際に何度も科学調査が行われている。

 もうひとつの「オラン・ペッテ」の方は著者の完全な創作。スマトラの沼沢地で発見されたこの未知の人類は、鰓と肺との両方で呼吸する両生類のような体構造を持つという。この「オラン・ペッテ」を、叩き殺して野天で解剖するくだりが、冒頭の博士のセンセーショナルな死にざまと並んで本作の見せ場となっている。

 この作品は雑誌『宝石』の懸賞に入選した著者の処女作だ。懸賞が「創作探偵小説の募集」だったこともあって、本作も一応「宮川博士の死の真相にまつわる物語」という形をとっている。とはいえタイトルからしてネタバレ気味で、謎解きについてはどう見ても重要視されてない。そのかわり未知の人類や古生物に関する描写は詳細を極めていて、本作で描かれる秘境への強い憧れは、著者の生涯のテーマとなる。「処女作には作家のすべてがある」とはよく目にする言葉だけど、香山滋に限っていえば大当たりだと思う。

 宮川博士に対する復讐を終えると「オラン・ペンデク」は故郷へと帰っていく。そこは侏羅の花咲く楽園のような世界らしい。「私達は疾病も、飢餓も、希望も、失意も何も知らない。晨、野草の実を炊ぎ、夕、魚介を掬う。夜、男は蘚苔の床に葉笛を吹き、女は乳房に月光を浴びる。言語は持つが、文字はなく、智性は生活の方便に費やすが、一切の形而上の問題には無智にひとしい」(p.24)、俺も連れてってくれよって感じのユートピアだ。きっと著者もそんなふうに思いながら、この作品を書き上げたのだろうと思う。

 今月はヒマさえあれば香山滋全集を読んでいた。ここで感想を書くにあたって引っぱりだしてきたのがきっかけだった。刊行時に一通り以上は読んでたはずなのに、こんなのあったっけ? って作品がいくつもあって、得した気分になった。もともと文章がヘタすぎて切実にやばいってことで書きはじめたブログだけど、こんな感じでちょっとしたいいこともある。


関連記事
serpent sea
Posted byserpent sea

Comments 0

There are no comments yet.

Leave a reply